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 いや、遅い遅い。しかし、見切り発車で書くことのコツは掴んだぞ。
 ところで、よくハウツー本などに、最初に見せ場を作ると良いとかいうことが書いてあるけれど、単純にそれに従うと、ちょっと食傷気味な書き出しとなってしまうのではないかと思う。割と有名な定説だから、結構多くの作品が実践しているようで。それはおそらく、応募原稿についても同じだと思うのだ。
 そんなわけで僕が今回実践してみているのは、「文圧で読者を殴り殺す」という方法である。……いや、殴り殺すって言うのは僕の勝手なイメージなので抵抗のある人はまあ「圧倒する」とかに置き換えてくれたらいいと思うんですけれど。
 純文学なんかでは例えば「蹴りたい背中」の冒頭がそれにあたる。最初から綿矢りささんの持つ描写力みたいなのが惜しげもなく全開になってます。
 「さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。気怠げに見せてくれたりもするしね。葉緑体? オオカナダモ? ハッ。っていうこのスタンス。」
 のっけから状況の説明もなくこれを持ってくるというのはかなりサービス精神が発揮されているように思う。主人公が追い詰められてる展開とかだと、場合によって説明を挟んだりする必要があったりするが、描写ならまだ、大丈夫である(ちなみに、この次のページから、主人公がクラスで孤立した存在であることの軽い説明が入る、が描写の間に挟んでいるわけではない)。


 まあそんなわけで僕も結構張りきって最初から読者をぼかすか殴りましたよ。上手くはめてやったとしたり顔で陰で笑ってるよりは、目の前で爆笑しながらガスガス血まみれにしていく方がなんかノリとしてはいいかなぁ、僕は。

 追記:
 逆に、極端にそっけない(透明な)文章から始めるというのも一つのテだろうか。芥川龍之介の、古典を焼きなおしたタイプの作品はそんな感じのが多いような気がする。