短編習作

※某錬金術漫画と登場人物の名前及び設定が被っていたので、変更しました。偶然の一致だったので勘弁してください。僕ハガレン読んだことありません

八月三日のエントリで大変な自己欺瞞を起こしていたのに、おとといようやく気がついた。
まあそのことについては後で。ようやく、三日前にお題をもらい二日前に書き始めた短編が完成しました。もらったお題がなんだか後付けのように見えるけれど、結論から逆算して構成してるのでそういうことではないです。
それにしても、体力的にも精神的にも、小説を書くとは命を削る行為だと改めて実感しました。
※近未来SFにつき、都合のいいように適当に事実を改変しています。十八禁要素はないですが一部少年愛の要素があるので耐性のない方は注意。四百字詰め原稿用紙で四十枚強程度です
追記:コメント欄に、ご指摘・感想のほか次回(ショートショートに挑戦)のお題も頂けると嬉しいです。
遅くなりましたが、お題「手をつなぐ」を下さったおべんとパンさん、「ここに地果て、海始まる」を下さり励ましてくださった柳喃志さん、そして燃えつきるのを防いで下さったdeltamさん、いつか「何か書けたら読ませてください」と言ってくれましたがようやく一個完成しました、応援ありがとうございました




 ぎこちない指の関節で骨が擦れるのを感じ、顕微鏡から目を離して見てみると、暗い紫色に膨らんだ芋虫のような細い肉のかたまりがそこにあった。実験薬品に漬かり、キーボードのタイピングに日々酷使された結果だ。人の肌色を失った指は、腕から先がそれだけが沈んで異質に見えた。ついに、この生きた手にもおさらばするときが来たようだ。
 椅子の背もたれにどかっと背中を預け、どこかへ遠のいた意識のままおれは曲がらない指でもう片方の腕を手から腕、肩へとなぞった。
 服のおおいに守られていない全身はあらわで、しかしまったくそこには裸特有の違和感はない。なぞる指が感覚のない手の甲から受ける温度は、手首を通過するときに途切れる。そこから先は、すべて冷たい寡黙の金属がかたち作っているからだ。
 なめらかで、光沢をもった合金の肌の内側には、神経や筋肉の代わりとなる半導体や金属繊維が隙間なくひしめきうごめいて、おれの動作一つ一つを作りあげている。肩を回したり、あるいは腹に力を入れたり、走ったり、まばたきしたり、そのたびに耳障りな尖った音が体中に響く。普段は気にしないその雑音は、時おり意識をむけると、まるで小さい悪魔が金切り声をあげているかのような気にさせるのだ。金属繊維のあいだにすみついたそいつらが、おれを地獄に呼び込もうと叫びながら視界の向こうからはい上ってくる。生身の体なら寒気をおぼえるはずの恐怖に近いそれは、実はこのおれはすでに死んでしまったのではないかという、もう意識は体から離れていったのではないかという浮遊感を呼び起こし、本当に絶命したかのような錯覚におれをいざなう。
 そう、おれの体はもうほとんど生きていない。なんせ、生身の肉体はもうこの手の先と脳味噌しか残っていないのだ。それ以外は、足と頭から順に腐っていってしまった。体細胞の分裂と代謝の速度を遅め、ついにはその能力を完全にうばうという奇病の病原体は、おれの研究過程から偶然生まれたものだ。現場にいちばん近かった俺は、皮肉にも患者第一号となってしまい、欠損した部分をこうして機械で補うことを余儀なくされた。
 発症した当初は、進行のはやい症状を前にしながらきっとどこか生身が残る部分がある、とあてもなく信じていた。だが、曲がらない紫色の指はとうとうその風前の灯火を消しさってしまった。
 くさっていてもしょうがない。ただの肉塊に愛着をもっていたとして、それでは研究が続けられない。手首の先を機械に置き換えてもらうため、俺は町を出る前から頼りにしている技術者のもとへと出かけることにした。
 外套を着て研究室のドアから出ると、びゅうと音をたてる乾いた強い風で飛ばされそうになった。それに負けないようにかがんでから、ひびの入った赤茶色の地面を数歩したところで振り向きざまに、出てきた建物を眺めてみた。雑草や石があるだけの広い荒野にぽつんとたたずむ、吹きつける赤土で壁が薄汚れた白いプレハブは、子どもが蹴れば崩れてしまう砂の城のようだ。そこにおれは住んでいる。
 もろい、この孤独な建物を、だれかが横殴りにして壊してしまうだろうか。ならば、こなごなになった壁は風に吹かれてどこかへ飛んで行ってしまうだろう。一瞬、そうなったらどんなにかすっきりとするだろうと考えたが、同時に何か、あり得ない空想におかしなうすら笑いを浮かべ、馬鹿らしくなっておれは再び歩き始めた。
 こんな人里離れたところに住むようになったのも、やはりこの病気のせいだ。日々肉体を失っては金属で埋まってゆく自分を、周囲の人間がどんな反応をするかというのは想像に難くなかった。気味悪がられたり病原菌あつかいされて町を追われる前に、恋人にも知らせず逃げるようにしておれはこの荒野にやってきた。学生時代からの想い人が突然いなくなって、あいつは悲しんだだろうか。いつか帰ってくるのではないかとか、そういうつまらない希望は持たずに忘れてくれていることを祈る。おれはきっと、君の気高く清廉な美しさを、記憶から消し去ることはできないけれど。
 昔のことを思い出していると、懐かしい気分になった。頭の中に寂しさが広がっていくこの感じ、まだそれほど機械にまみれていなかった頃は、胸の奥が締め付けられるような思いだとか言ったものだ。幸いにも、脳細胞だけはあの頃と同じものを持っている。情報のやり取りの能力だけは残して脳を保存する──SFによくある話だ。まだあの頃と同じものがおれにあるとすれば、このおかげだろう。顔だけは特殊な樹脂か何かで表面的には再現してあるが、生きたそれとはまったくかけ離れたものだ。おれにあるものは、もうこれだけしかないに違いなかった。


 やはり人里離れたところに、その技術者の工場はあった。トタン板が風でけたたましい音を立ててなびいている。おれの研究室の設備も、ここから譲り受けたものだった。
 技術者は片目にレンズをつけて作業をしているところだった。細いピンセットのようなものでつまんだ部品を電子基板におくのは、老眼の奴にとってはきついものだった。浅黒い肌と白髪の頭をした技術者は、おれに気付いて自分の横にある椅子に腰かけさせた。
「ここに来たってことは、もう限界なんだな」
 言葉足らずの質問にうなずいて、おれは腐りかけた指を開いてみせた。よく見ると、紫色は指先から伝播して手のひらの半分ほどがすでに壊死しかけていた。
「痛むか」
「いいや。足の時はだいぶきつかったんだがな。神経の接続がうまくいってないんじゃないか」
「そうかもな」
 そういうと、技術者は棚から麻酔薬の瓶を取り出して、注射器を探した。医療機器メーカーの名前が印刷されている袋を見つけた技術者は、思い出すようにまたおれに質問した。
「なあ、お前本当なら今何歳だ」
「三十二だな。お前とちょうど三十歳違いだって言っただろう」
「そうだったっけな」
 袋から注射器を出し、そこから目線を移さずに老人はこう続けた。
「お前がこの病気になったのはたしか二十一だった」
「ああ、それがどうした」
「ユウリのことはいいのか?」
 その名前を聞いたとき、視界がぼやけてまたあの感覚が頭に広がった。注射器に麻酔薬を吸わせる技術者の指は、おれの意識の液体をかき回す様に目の中でわらわらと舞っているようだった。その動きは蟹や百足の足が折れ曲がる不気味さをちらつかせた。
「あんなに仲が良かったのに、何も言わずにおいていったことを後悔しないのか?」
 老人が声を発するのに、口だけがぱくぱくと開いて閉じて、言葉は別のところから突き刺さってくるようだった。
「……さあな」
「未練はあるだろうよ、そんなに素っ気なくして」
「……だから、なんだ」
「まあ、お前がそう言うんなら、俺にはなんとも言う資格はないがね──」
「ところで、おれの他に先に研究に成功したチームはあるのか」 
 押し殺した声でおれは話題を変えた。おれの研究は、永遠に分裂する、そして万能細胞をも超える細胞を作ることだった。
 著書『人間 この未知なるもの』で知られるアレキシス・カレルは一般に細胞が無限に分裂して増殖することを主張した。が、細胞は増殖していくうちにDNAの末端にあるテロメア部分が短くなり、それが無くなると細胞は分裂しなくなることが後に判明した。これがヘイフリック限界といわれるものだ。それで、テロメアが短くならなければ寿命もなく老化もしないという話はずっと前からあった。
 現に、俗に万能細胞と呼ばれるips細胞内では、テロメラーゼという酵素テロメアが短くなるのを防いでいるため、無限に分裂することができる。その一方で、万能細胞は分裂する際にDNAを正確に複製する速度が遅く、精度も低い。細胞は一つ一つにDNAの束を所持しているため、一つの細胞が二つに分裂するときはDNAを複製しなくてはいけない。しかし、万能細胞はその能力が低く、臓器ひとつくらいならまだしも、人間の体細胞の総数と同じ六十兆個にまで分裂するまでにはあり得ないほどの時間がかかるうえ、元の細胞とはまったく違うようなDNAをもったものが体内に多数存在してしまう。これは病気でいう癌だ。そんなものが体中にある生物が、そう長く生きるわけもない。
 おれの研究は、安定してひとつの生物体を作り上げることのできるほどに、迅速かつ正確にDNAを複製して分裂する万能細胞を作り上げること、つまり分裂能力の高い万能細胞を作り上げることだった。もしこれが成功すれば、永遠に細胞を分裂させて生き続ける生命体がこの世に存在できることになる。
 だが、突然発生した病原体は、おれの体中でテロメアを食い散らした上代謝の機能まで奪ってしまった。はたらきを失った細胞は次々に寿命を迎えては死んでゆき、機械部品でそれを埋め合わせていった結果が今のおれだ。
 人肌のあたたかさ、恋人の満たしてくれる幸せを放棄せざるを得なくなったおれは、せめて研究の目標だけは達成したかった。充足を求めてさわぐ、行き場をなくした忸怩じくじたる焦りをもてあますおれのもとにあったのは、自分をこんな体にした研究の成果だけだったのだ。様々な機能へと分化する万能細胞が、無限に生き続ける生命体へと飛躍する──人間、いや生命のすべてを超越した神の手を獲得すること、その空恐ろしい魅力は、気が違うのを通り越した虚無をもがくおれを惹きつけるには十分だった。
「いまのところそれらしい話はないがね。俺だって一応、お前さんの体を診るくらいだからその方面に通じてるってのはわかってくれてると思うが……まあまだ遠い先の話だと──医療のお偉いさん方からは、そう聞いてるよ」

 手術を終え、完全な機械となった腕の先をまじまじとながめていると、技術者が声をかけてきた。
「どうだ、ちゃんと動くか」
 力を入れてみると、思いのほか指は軽く抵抗のない動きを見せた。鈍い光をはなつ表面は、ぶよぶよの芋虫だった時と違い、どこかがっしりした頼もしさを思わせる。
「ありがとうよ、これでまた研究に没頭できる」
 かけてあったハンガーから外套をはずして羽織って、研究室に帰ろうとした時だった。
「なあ、お前はどうしてそんなに急ぐのさ。機械化された体なんていうのは、昔から永遠の命の象徴だ」
「馬鹿にしてるのか?」
 技術者の無神経な発言に苛立って、つい声に怒気がこもった。
「脳の神経細胞を新しく作ることもグリア細胞による修復もできない、おれの脳細胞は外からの衝撃で死滅して減っていく一方なんだ。そのくらいわかってるだろ」
「まあ確かに、心臓からの血液が栄養を送り届けてくれるんなら話は別だがな。今のお前のエネルギー源は食い物じゃなく俺のかいがいしい充電だからな」
 工場の隅に置いてあるプラグをちらっと見て、技術者はつぶやくように、しかしはっきりと言った。
「わかっているなら、何をいまさら」
「そうじゃなくな」
 浅黒い、骨ばった喉をごくりと鳴らしてから老人はこう続けた。
「機械の体なんていう、およそ生体とは遠い存在になったお前が、なんで究極の生体にそこまで執着するのかと気になって、よ」
 そういうと、技術者は目を床に落として黙り込んでしまった。たるんで張りのない喉の皮膚が、引けば破れそうなほどに脆い膜のようだ。プレハブの研究室と同じく、この男の体も、そこにある意識もきっと、誰かが押せばすぐに壊れてしまいそうなほどにあっけないものなのだろう。年寄りのくせに気弱な奴だが、これでも俺の恩人ではある。そのまましゅんとさせておくのも気の毒だ。労わってやってもいいかな、なんてふと、生意気な考えが浮かぶ。
「細胞の分裂は自然界でもっとも代表的な自己組織化であり、自己創出オートポイエーシスだ。それはわかるな」
「んん、ああ」
「おれたちの体は、細胞が死んでは生まれかわることで絶え間なく変化し続けている。ほとんど分裂しない脳細胞だって、構成してる物質は一年という時の間に完全に入れ替わってしまう。脳細胞でなけりゃ、もっと早い(※追記:これ自己創出じゃなく物質交代の話ですね。あほか自分……)」
「生命は永遠に流動し続けるんだとか、言ってたな」
「そう。生命は存在する限り、その肉体、そして精神も流動することをやめない。死ぬまで生まれ変わり続けるわけだ。この動的なダイナミズムは、生命の定義そのものだ。『今』という一瞬が一瞬で終わり、常に新しい存在であり続けることに美しさがある。しかし、ヘイフリックなんていうものが無粋にもそれを限定してしまう」
「その永遠の美しさを追求して、完全な分裂能力をもつ万能細胞を……」
「肉体は冷たい寡黙な機械でおきかえられ、脳細胞は計算機としての機能を保存され、細胞の中身を入れ替える構成物質を運んでくれる血液は体には通っていない。まあこれは仕方のないことだし、お前を恨んじゃいないよ。
 ただ、完全に流動を失い、『今』という一瞬を死ぬまでの無限地獄でとどまり続けるこのおれに、生命を名のる資格はない。だがな、もし研究が成功すれば──」
 そこまで言って、はっとしておれは口をつぐんだ。技術者は、やはり床に目をやったまま、同じく黙り込んでいる。なんとか奴との会話をつなげようと言葉を探したが、探りの手を頭でかき回せばかき回すほど、続く答えが見つからない。
 一体、おれは何のために研究を続けていたのか。自分自身が生命としての時の流れを失った。生み出そうとしている万能細胞にはそれはある。これは確かだ。
 だが、それがどうしたというのだ。おれがユウリに黙って去っていったのは、醜い機械の体が美しいユウリに釣り合わないからではない。もしそう言ったら、きっとあいつは引き止めただろう。しかし、機械の体になった以上、おれはユウリと同じ時間を共にすることはできないのだ。確かに、発症した当初は自分が一部でも生命でいられるのではという希望もあった。しかし、もし全身が機械になったら、そう考えると胸が締め付けられて、いてもたってもいられなくなってここに逃げてきたのだ。
 予防のためのワクチンを完成させておいたおれは、ユウリへの置き手紙と共に元いた場所を去った。動物実験でも確かな効果があったのだから、きっとユウリはこの苦しみを味わうことなく幸せに暮らしているだろう。ただ、一緒に時を過ごせないこと──もう、どうやっても同じ世界に生きることができないこと、そのことがただ悔やんでも悔やみきれなかった。
 行き場のない悶えをなんとか封じ込めるために、おれは病魔に復讐するように研究に没頭してきた。ただ、それは──
「もし研究が成功したら、どうするつもりだ」
 声にふっと気がつくと、技術者が心配そうにこちらをのぞきこんでいた。
「万能細胞でお前の体を再構成して、その脳を定着させるのは──まあ無理な話だ。お前さんの脳細胞のテロメアはもう、とっくにほとんどがなくなってるんだからな。死ぬ手前で、つま先立ちしたものをだ、もう一度よみがえらせたところで、すぐに機能を失うだろう」
 その言葉を聞いて、ようやくおれはこの老人が話しながら奥歯に詰まらせていたものを察知した。つまり、奴は自分のところにやってきては肉体を失っていくおれが、研究にやっきになる一方でまた別のものを失っていくのが哀れに思えていたのだ。
 この弱い、今にも首が折れて死んでしまいそうな老いぼれに、生の価値を問いただされながら同情されている。情けなさでいたたまれなくなって、とっさに押し返す一言を吐いた。
「海に、放とうと思うんだ」
「海に?」
「ああ、海にだ」
 老人の食い付きに、できるだけ平静な調子でおれは答えた。
「別に、他にすることがないからって、理由もなく研究ばかりしてたわけじゃない。目的や動機がなけりゃ、こんなに七面倒くさいことやってられるか」
「まあ、わかったよ。それで、海がどうした」
「海はな、すべての生命の起源であり、得体の知ないものまで様々なものがそこで生まれた」
「まあそりゃあそうだな」
「しかしだ、それでも生命史上海の中ですらおそらく無限に分裂する万能細胞なんてものは存在しなかった。そんなものがあれば、とっくに繁栄してるはずだからな」
「新しい生命の世界を、そこでお前が作りだすっていうのか」
「単細胞は他の細胞と共生関係になって進化することも多いし、何らかのきっかけで他の生物からDNAを獲得してまったく予想もつかない能力を手にすることもある」
 けっして、口から出まかせを言ったわけではなかった。この細胞の将来性に関する仮説は、研究予算を国からぶんどるために打ちだした口上だったのだ。研究で生み出そうとしていた万能細胞の分裂の最高速度は、計算上これまで観測されたあらゆる細胞のそれを超える。爆発的な生命現象が実現の間近だった。
「永遠に分裂して増え続ける万能細胞なら、おそらくこれまでにない可能性が、海でならきっと実現するはずだ」
「カンブリア大爆発、か……」
 技術者が安堵の表情に、微かな笑みを浮かべるのを見届けて、おれは礼を言いトタン屋根の工場を出た。

 おれはそれから、工場から研究室へとまっすぐには帰らず、ちょっとした寄り道をすることにした。
 だいたい北東に五キロほど行ったところにそれはあった。重たい足が砂浜に沈むのを引っこ抜くように、一歩一歩の動作が大掛かりで、早く進みたいのにじれったくてならない。
 しかし、もう生あたたかいしょっぱい潮の香りはすでにおれの鼻をついている。あの日感じた、肌を風がなでていく時のひりひりした心地よさは金属の皮膚ではわからないけれども、どんなものだったかは今でもはっきりと覚えている。
 波の音が聞こえた。小さく静かにうち寄せたあと、大きなものがはねてかぶさり、はじける音とともに白い泡がさらさらと消えていく。海水が砂浜に広がってくる。その向こうは、うねるような波が水面にあらわれては揺れ、そして水面へもどってゆき、また頭を出すようにあらわれる。いちばん向こうには水平線があるが、水面はもっともっと遠くまで続いている。すべての生命のふるさと、そして思い出の場所、おれは果てしない海を目の前に臨んでいた。
 砂浜にひとり、ぽつんと立つ自分を想像すると、意識はそのままかたちを失って、どこまでも、どこまでもとけて広がってゆきそうだ。そう、そのまま海へと流れ込んで、あの波と同じように生命があらわれては消え、あらわれては消える、産み出すゆりかごに抱かれ、ずっとあたたかい夢の向こうで、生きていることも忘れていたい。
 ユウリ。
 ふと、ユウリ、その名前が思い出されたかのように、ふつふつと霧のむこうからやってきた。
「いつか、いつかきっと研究を成功させよう。ぼくときみなら、きっと大丈夫だよ」
「ああ、絶対にだ。おれはユウリと、絶対に研究を成功させる」
「地球が今まで産んできた、すべての生命を超えるものを、そして、新たな歴史の一ページを。いっしょに作ろう」
「おれたちの名前はその最初に刻まれるんだ。新たな世界の律を築いた者として」
「うん、そうだよ、そして、もしそうなったら──」
 頭の中で、反響してくりかえされるユウリとのやり取りが環を描くように流れてゆく。その中心に、ことばの粒子が集まってきらめく黄金の絹糸を形成し、糸はしなやかによりあって人の形を編み出してゆく。美しいユウリの姿が、天の河のまばゆい輝きの中にあった。
──もう、疲れたんだね。アルは、よく頑張ったよ──
 目を細め、ほほえんでおれの名を呼ぶユウリの声が伝わってきた。それは決して、憐れみや同情のそれではなかった。おれは、ユウリに再び会うことができて嬉しい。ユウリもきっとそう思ってくれているはずだ。
 河にたたずんで笑顔を浮かべるユウリは女神のようだった。すべての人間罪を洗い流し、やさしさで包み込んでいつくしむ女神。おれの心の中にあった黒くほころんだ布のような汚れが、はがれおちてゆく。
 浄化され、真っ白な華となった心は女神の呼び声にこたえて引きつけられるように向かってゆく。
──さあ、アル、こっちへおいで──
 腕が、ぴくりと動いて、それは河の彼方に居るユウリへとのびた。意識とは関係なく動く自分の体にいざなわれ、そのままおれは黄金のかがやきにとけていった──

 目の前では、ゆらめいて熟れた真っ赤な太陽が、燃えさかる紅を海に映し出していた。オレンジの光が水面をすき通って、おだやかなぬくもりを照らしだしている。雲は藍色の空で混ざりあう夕陽の燈とともに、水平線の果てまで包み込む濃淡の階調をつくりだし、おれはその下で茫としてどこへともなく発散していた。
 ユウリは幻だった。霧がかった白い夢のまどろみで見た、おぼろげな幻だった。
 夢からさめて、夕焼けの暖かさの中で、おれは一人寒気を覚えた。もう、おれの名を呼んでくれるものはこの世にいないのだろうか。おれは、何を求めて生きていけばいいのだろうか。
 どこか遠いところから、何かの声が聞こえてくるのを気付くのに、少し時間がかかった。技術者だろうか。それとも、砂浜に座る一人の男に好奇心がわいた、誰かの声だろうか。もしそうだとしたら何歳くらいだろうか。これは女の声ではない。それにしてはかなり高い。金切り声でもない。子供だろうか。この、丸みのある柔らかな声は──
「探したよ、アル」
 振り返ると、白衣を身にまとった背の低い少年がそこにいた。
「やっぱりアルだ。そうだよね、ねえ」
 すらりと細く、たおやかな指のような肢体、吹けば飛ぶような華奢な体躯、あどけない幼さを残しながらもきりりとした強い意志をみせる瞳、妖艶といってもいいほどに美しい、小ぶりな唇と鼻と目もとの顔立ち。
 まさしく、ユウリの姿がそこにあった。
「研究でお世話になってた技術者のおじさんが、アルのことを知ってるって。口止めされてるって言って今までなかなか話してくれなかったんだけれど、ちょうどさっき工場からこっちに来たって教えてくれたんだ」
 浅黒い肌の老人が、面倒くさそうに指でおれの行き先を指すのが目に浮かんだ。
「国立研究所を飛び出してから、ずっと探してたんだ。ねえ、帰ろうよ。どうして一人でこんなところに今までいたの」
 ユウリのはじけるような嬉しさをにじませる声が、遠くから聞こえているようだった。おれはやはりまた茫として、ユウリがそこに立っていることも信じられずにいたが、ふっと立ちあがり、意識をしっかりと取り戻した。
「ほら、はやく行こう。アル」
「ふたつ聞いていいか」
 強く、感情を押し殺して冷たくおれは発した。ユウリがきょとんとした顔でこちらを向いている。
「見ての通りおれは機械の体だ。まあそりゃあ顔だけは万が一誰かとつき合わせたときのためにある程度まともにはしてあるがな。それでもこのざまだ」
 十数年と人に見せていなかった笑顔を樹脂の上におれは作って見せた。が、鏡で確認した限りではそれはプラスチックにぐにゃりと皺が寄っただけの、能面を無理矢理ねじ曲げたかのようなしろものだった。ユウリは一瞬眉をゆがめたかのように見えたが、すぐに落ち着いて毅然とした表情を見せた。
「機械の体になったおれはもう二度と生命が生命であるための、細胞が新生する流動を、生きることはできない。無機のかたい鋼鉄が、ただ一点でずっとつっ立ってる。お前たち生命が、細胞の生まれ変わりの中で時を歩んでいくのに対し、おれは脳細胞が傷ついて減っていくのを指をくわえて死に向けて待ってるだけだ。わかるだろう、利口なお前なら」
「……僕たちにとっての『今』は文字通り、生物体としても『今』でしか存在しない。そんなことを、君は前に言っていたね」
 目線を砂浜にそらして、泣きだしそうになるのをこらえてユウリは答えた。
「おれがユウリと一緒にいても、その『今』はまったく違う次元のものだ。おれとユウリは同じ時間を共有することができない。よろこびを感じたとしても、それは二人の幸せじゃない、違う、にせのものだ。わかるか。おれはもう、ユウリの恋人として生きる資格を持たないんだ」
「……そう」
「昔は感じていたさみしさや悲しさだって、この鋼鉄の体は感じない。この手だって、ついさっきあの年寄りに機械にしてもらったところなんだぜ」
 おれは新しくなった片方の手をユウリに見せつけた。
「認識は身体全体で作られるもの、それは感情だってそうだ。お前の姿を久しぶりに見たとき、胸の底から湧いてくるはずだった懐かしさや嬉しさはみじんも出てこなかったね。ここに立っている人間はもう、ユウリの知っていたころのアルじゃない、そして」
 おれがそこでことばを区切ると、ユウリは背けていた顔をゆっくりとこちらに向けた。それからおれと視線を合わせてなにかを言おうとしたのを、はっと目を大きく見開いて口をつぐんだ。
「お前は誰だ」
 荒野で野生動物に襲われた時のために、外套に入れていつも銃を携帯していた。突き付けられた殺意を、信じられないとばかりに驚く少年に、おれは続けて尋問した。
「確かに昔のユウリはそんな姿をしていたかもな。しかしだ、もうあれから十一年たってるんだ。十八の子供が二十九になって、まだそんな幼い顔つきで、しかも甲高い声をしているとでも思ったのか」
 一歩一歩、前ににじり詰め寄っていくごとに、ユウリの姿をしたそいつは後ろへ下がる。
「なんだ、お前はクローンか何かか?それにしちゃあ成長が早いな。だが、ユウリじゃないことは確かだ。お前は一体誰だ」
 銃を持っていない手でそいつの胸倉を掴んで、銃口を額に突き付けた。冷たい金属の親指が鎖骨にこつりと当たったのを感じて、おれは語気を荒げた。
「さあ、喋れ、本当は一体誰なんだ、そしてお前とユウリに何の関係がある」
「……離してよ、アル。僕はユウリだ」
 白衣を着たその子供の目元から涙があふれた。ユウリも泣くときは、いつもこうやって目を大きくあけたまま、泉からわき出るように涙を流したことが思い出され、おれの怒りは頂点に達した。
「嘘をつけ!!それ以上ふざけたことを言ってみろ、容赦はしないぞ」
「だから、本当に僕はユウリなんだよ。アル、君のおかげでこうやってあの時のままの姿でいられたんだ」
「はぁ……?どういうことだ」
「とにかく、その手を離して。そうじゃないと、落ち着いてしゃべれないよ」
 言われるがままに、指を広げてしまった。小さく咳払いをしてから、ユウリを名のるそいつは話し始めた。
「アルが国立研究所を飛び出すまえに、病原菌に対するワクチンをおいていってくれたでしょ」
「ああ」
「正直、おどろいたよ。だって、そんなものを一体どうやって作ったのか見当がつかなかったから。だから、そのワクチンがどう生物に働きかけるのか、あとで精密に調べてみたんだ。そしたら」
「まさか、テロメアが減らならなくなったとか言うんじゃないだろうな」
「そのまさかだよ。ワクチンを注射された生物の細胞内で、活性化したテロメラーゼが大量に検出されたんだ。つまり、今の僕は不老不死さ。これで、信じてもらえるかな」
「……証拠は、何かあるのか」
 しつこく疑うおれの態度に、ユウリは少しひるんでから、白衣をまくって右腕をこちらに差し出した。
「アル、ここを軽く、握ってくれないかな」
 一体何なのことかわからなかったため若干ためらったが、ユウリの腕の真ん中あたりを握ってみた。
 とその時、やわらかい粘土をつかんだ触覚が走った。スライム状の何かゲルのようなものがおれの手の中にあった。ユウリの細い腕に、金属の五本指が食い込んでいる。おれは飛びのいて、腕を離した。
「万能細胞はさまざまな細胞に分化する可能性を持っている。つまりそれは、人間の最初の状態、受精卵と同じ性質を持ってるってこと。ユウリは多分、普通の体細胞から万能細胞つくった時に、活性化したテロメラーゼが細胞内で増えるしくみを応用してワクチンを作ったんだよね。そうでしょ」
 その問いかけに、無言でうなずいた。
「でもそれにともなって、細胞が万能細胞と同じ状態にだんだんと推移していくことが明らかになったんだ。つまり、僕の体中の細胞は」
「万能細胞と同じ、受精卵レベルにまで初期化されていっている──」
「そう。その速度はすごくゆっくりで、だからそこまで外から見てもわからないと思うんだ。でも、ワクチンを注射したこの部分はもうだいぶ進行してるみたいなんだ。だから、細胞の結合がゆるくなってる。このままにすると、結合が失われて細胞はこぼれおちていくだろうね」
「そんな……」
 ようやく事態を把握して、おれは愕然とした。このままでは、ユウリのすべての細胞は受精卵のレベルにまで退行していく。意識をかたちづくっているものが持つ情報が、すべて初期化されるのだ。それはつまり、ユウリが死んでしまうのとまったく同じことを示す。
 あせってきちんと効果を調べ尽くさずにワクチンを完成とみなしたのが仇となった。おれはユウリの目の前から早く逃げ出したかったのだ。やはり、おれは機械で汚されていく醜い自分をユウリに見せることを恐れていたのだ。結局、ワクチンを作ったのもユウリを想ってのことではなくて、自分のためにだったのだ。
 ユウリはきっと、おれが研究所を飛び出して深い悲しみに暮れたに違いない。しかしそれだけでなく、おれはユウリを殺してしまう薬を注射させてしまった。いったい、なんて取り返しのつかないことをしたのだろう。後悔、自責、失意、罪悪、こみあげてくる言葉はすべて陳腐で月並みで、ユウリに対するものにはどれも不十分でまったく意味をなさないものばかりだった。
「大丈夫だよ、アル。この症状を抑える薬も今研究しててさ、もうじききっとできる頃だよ。アルのやったことは無駄じゃない。安心して」
「……そうか」
 それを聞いて、ほんの少し安心できた。
「アルの目指してたことだってそうだよ。アルの作ったワクチンの成分を調べてた別の研究者の人が、アルの研究の色々な成果をもとにして、永遠に生きる万能細胞を作るのについに成功したんだ」
 ぴくり、と体が硬直するのが自分でもわかった。
「学会にも発表したよ。アルは新聞やテレビで見て──ないよね。でも、これでもう、研究にしばりつけられることもないよ。だからさ」
「あの老人はそんなこと言ってなかったぞ。いつの間に」
 おかしいな、と首をかしげるユウリを見て、なるほど、と気付いた。やはりあの技術者は嘘をついていたのだ。今日訪ねた時の奥歯に物が詰まったような喋り方も、きっとそのせいだったのだろう。今日に限らず、研究にやっきになって生きる目的を見失っていくおれではなくて、それしか生きる理由がないおれを哀れに思っていたのだ。結局、おれは哀れにされるのに十分なほどに馬鹿だった。この十一年間、一体何を見ておれは生きていたのだろう。
 涙ひとつ、目に浮かばない。なぜだろう、どうしてこんなに悲しいのだろう。悲しいのに、泣けないからだろうか。悔しい、悔しい、機械の体には涙も流せない……
「そんなことよりもさ」
 ユウリがしゃがんで、いつの間にかへたり込んでいたおれをのぞき込むようにしながら、不意に声を響かせた。
「さっき言ってたでしょ。もう僕とアルは時間を共有できない、生きてる世界もちがうんだって。それはそうかもしれない、でもひとつだけ確かなことを持てると思うんだ」
 手に、あたたかくやわらかなものを感じた。これは、ユウリの手だ。冷たい金属の上にただ温度の高いものが乗っているだけなのに、体の芯までしみ込んでくる優しさのようなものが、思い出されるように伝わってきた。
「あのとき、砂浜で将来のことを一緒に話した時も、こうやって手をつないだよね。僕はこの瞬間で、アルと同じ『今』もともにできないし、そのまたすぐ次の『今』も、時間軸の上でのどの点の時間も共有できない。でも、ぼくとアルは確かに手をつないでる」
 ユウリの手に、ぎゅっと力がこもる。その感触が、頭の中でゆきわたるように広がった。
「お互いが一緒に触れ合ってるっていうことだけはきっと確かだもの。時間の流れや認識のずれなんて関係ない。ぼくは、アルと一緒に居るだけで幸せだよ」
 ユウリはおれの腰に細い腕を回して抱きよせ、特殊樹脂のおれの顔に軽く頬ずりして、そっと撫でた。
「もうどこにも行かないで。僕とアルはずっと一緒にいるんだ。それだけが幸せのよりどころだって、いいよね」
「……ああ」
「良かった、アルがそう言ってくれて」
 おれの体を揺さぶるほどに激しく何度も頬ずりしてから肩を強く抱いて、ユウリは目いっぱいにためた涙をふたたび流した。放たれる涙の河は、おれの首を伝って胸から下半身、太腿へとほとばしる、それは体の表面からおれの魂へとしみこんでゆく。
「ユウリ、大好きだ、ユウリ」
 ああ、この気持ちは一体何だろう。金属の皮膚はほとんど最低限の触覚しか感じないはずなのに、でもおれのどこにあるのかわからないけれど、果てしなく広がる意識の世界にはどこまでもユウリが満たしている。もろい自分を支えてくれるものを、おれは海で見つけることができた──

 電子基板の上に部品をのせるのに、レンズをつけようとした時に、ふと考えた。彼らは今、海の中で一体何を考えているのだろう。
 あの華奢な少年が、死にぞこないだと今まで俺が思っていた若者を突然連れてきて、彼の脳をそのまま自分の体内に移植してほしいと言った時にはさすがに度肝を抜いた。まあ、前に言っていたようにあいつ自身も自分の脳が機能しなくなるのがそう遠くないことを知っていたのだろう。
 その少年が言うには、自分の体に例のワクチンを注射して万能細胞群を作り、脳細胞を生かすための機能を持った細胞群に分化させれば、その中でならテロメラーゼによって永遠に生きることができるのではないか、ということだった。
 俺の専門はサイボーグ工学で、生体同士の接合は不得手であったため、ある程度人数のある医師団の協力を仰がければならなかったが、結果的にその実験ともとれる手術は成功した。
 腹に恋人の脳を内蔵した彼の恰好は、ちょうど子の命を宿した母親のようだった。彼は存外に、自分のその姿に満足げだった。
 一体それでそうするのかと聞いたところ、彼は細胞の分裂を促進する薬物と例のワクチンを大量に医師団からもらったのだと話した。なんとなく、どうするつもりなのかは想像がついた。
 細胞は、注入されたDNAと薬物の誘導に従ってさまざまな機能を持った方向に分化できる。万能細胞ならばなおのことなのかもしれない。おそらく彼は魚のえら何か、そういった水中での呼吸器官を自らの腕にでも誘導したのだろう。海の中で、彼は新たな生命界の母親となるつもりだったらしい。
 あれから十数年がたつが、今のところ新種の生物が水揚げされたなどという報告は聞いていない。しかし、彼らが永遠に生き続けるというのであれば、いつかきっと新たな生命の世界がそこで展開されるはずだ。
 惜しむらくは、その時にはもう俺が生きていないことか。そんな地球史上に残る大事件を目撃できないのはたいへんに残念なことだ。
 それにしても、厳しい海によく住もうと考えたな。大型の魚が彼ら食いにやってくるかもしれないし、イソギンチャクやヒドラなどの刺胞動物に住みつかれるかもしれない。……まあ、賢明な彼のことだ、きっとそのあたりは考えがあってのことなのだろう。
 彼らが愛を語り合ったあの砂浜。──ここに地果て、海始まる──ポルトガルの詩人が母国の首都リスボンの岬ロカに残した文句だった。ならば、俺もその言葉にならって、生命史の新たな一ページ刻んだ碑を立ててみようかとも考える。ここに地果て、海始まる。そこから先は、愛によって育まれた子どもたちによる創世紀が展開されている。
 一体彼らはどんな世界を海に作りだすのだろう。予定だけでもいいから、聞いておけばよかったかもしれない。ああ、死ぬまでに楽しみの一つくらい欲しかったのだがな。それとも、すでに機密となって持ち出し禁止にはなってはいるが、俺もあのワクチンを注射して不老不死となるのもいいかもしれないな……。


こんなところです。わざわざ少年愛にしたのは、少年の美しさを描く練習をしたかったから。
それにしてもなかなかストーリーが浮かばず苦労しました。おとといの夕方の時点で「カドヘリン」とか調べてたのが懐かしいです。でも書く方が十数倍以上時間かかったけれど。
この際細かいところは気にせずに、文体や醸し出す雰囲気について執拗にこだわったのでその辺について重点的にご意見など、コメント欄に頂けると嬉しいです。ありがとうございました。

追記:
僕は今まで自分自身をこのブログで語っていたと思っていた。その一方で、あまりに自分の中心に近い部分を語ると、さらに訳のわからない理解しがたいものをさらすことになるし、何より作品のネタバレになると思っていたため、その辺は自重していた。
しかしその結果、自分の外側周辺の、かなり先端的な部分しか語っておらず、それでお茶を濁していただけだった。それはまあ例えばみみっちい技術論だったりしたのだが、要するに毎日適当に思いついた発想くらいでしかなかったのだ。
今回、この短編をここにさらすことで、稚拙な作品ではあるが(後で読み返してぞっとした。ちょっとひどくないかこれ)僕は初めて自分自身を見せることができたと思う。加入させていただいてから迷惑なほどに何回もここに書いたけれど、作品に自分の思想基盤を託してこそ僕は自分の創作を成立させられるのだ。それが小説を書く目的でもある。
とはいっても、まだ一本の稚拙な短編を完成させただけだ。その点では今までとそう進歩したわけでもなく、ただ一つ、二つのことを再確認したにすぎない。問題は、これからなのである……