一人称にしたらダメだ
今書いてる小説のリライトで行き詰まる。
……この小説で一人称は危険だ。
リライト前に複数人に感想貰った時に、前半が辛い辛いと色んな人に言われてたんだけど、その本当の意味がやっと分かった。
主人公のメンタルが現代人と離れすぎている。
どういうことかというと、使命に殉じるような人間に現代人が感情移入するのは難しい、と言うこと。
リライト前は無意識に「三人称で主人公を外から見て、途中から主人公の一人称視点」になってた。今にして思えばあれは正解だったんだなぁ、と過去の自分の判断を軽く褒めてみる。
たとえば、『風雲児たち』の「吉田寅次郎」(吉田松陰)を思い出してみるといい。
別に『風雲児たち』じゃなくても、ともかく吉田松陰を主人公にして一人称小説にしてみるとしたら……きっと大抵の人はついていけないと思う。
分からない人の為に軽く吉田松陰の足跡を辿ってみよう。
スパルタの叔父(義父)に育てられ、幼少時から「この藩を背負って立つ」ことを義務づけられ、叩き付けられながら育てられる。子供の頃からともかく、「自分はこの国(藩)の未来を背負って立つのだ」と使命に燃えてただひたすらに遊ぶことなく勉学に励み続ける。
で、11歳の時に藩主にお目通り。藩主の前で「子曰く……」と孫子の兵法を諳んじる。
感動した藩主は11歳の吉田寅次郎を藩の軍事指南役にする。文字通り11歳にして長州藩の運命を握る大事な役割を担うことになる。
ところが、数年後にアヘン戦争のことを知り、このままでは長州藩どころか日本そのものが滅びる可能性を教えられる。
まだ十代なのに長州藩の最高軍事責任者だった吉田寅次郎は「このままではダメだ……国が滅びる」と苦悩する。そして、叔父(義父)に悩みを打ち明けたら「なら、お前は長州藩だけではなく日本全てを背負わねばならん! 日本を救う方法を考えるのだ!」と言われて更に苦悩する。(※明らかにこの義父の教育方針がおかしい)
で、20歳になって、藩から許可を得て遊学して九州に行ったり江戸に行ったりして蘭学などを学んで世界の広さ日本の技術の低さを痛感。
「このままではダメだ……日本は滅びる」
と更に苦悩。叔父(義父)によって「日本を救うこと」を義務づけられた寅次郎は命をかけて過激な尊皇倒幕に傾倒していく。
……ま、後は大体歴史教科書に載ってるからみんな知ってると思うけど、吉田松陰て子供の頃からともかくマクロの使命を背負わされて生きてきたんだよね。だから、同世代の子供達が鼻垂らして遊んでたりする中、「長州藩を守るにはどうすればいいのか」とか真剣に考えて生きてきた訳だ。
別に吉田松陰に限らず、当時の過激派の尊王攘夷派の志士たちはみんな本気で自分たちのやってることが日本を救うことになると信じて戦ってる。
でも、そういう「使命に殉じる者の物語」を一人称の小説でやってもなかなか読者はついてこれないんだよね。
ていうか、書く方も大変。
ここ数日、哲学さん執筆する際にはこれでもかというくらい気合いを入れてがぁぁぁ、と書いてきたけど、辛い。メッチャ疲れる。
こういう一途なキャラって三人称視点で見る分にはまだいいけど、一人称とか本当に疲れる。
少なくとも、大抵の現代人はもっと気楽に視野の広い……たとえば坂本龍馬みたいなメンタルの方がよっぽど取っつきやすいだろう。
人気のある桂小五郎にしても、過激な尊皇攘夷志士時代の桂は疲れると思う。銀魂みたいに訳分からん感じの方がまだ安心してとっつける(笑)
なんにしても、今のままだと、読み手にとって、作品の敷居が高くなってしまう。
もっとライトタッチにして三人称にしないと辛いな。
うーん、三人称にして書き直すかなぁ。どうすっかなぁ。
ちなみに今書いてる感じだとこんな感じ。
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第一章
捧げるは魂の全て。
身命を賭して貫くは果たすべき使命。
それが、僕の全てであり、僕を突き動かす衝動の根源だ。
何故生きるのか。その理由は人それぞれであり、時と共に変わっていく。
だが、僕にとって、拝命したその時から使命がその人生の全てとなっていた。
かの使命について聞かされた時、言いしれぬ羨望とその大望に関われるという歓喜に、抑えきれぬ熱さが今にも溢れ出しそうになり、理性がはじけ飛びそうになったものだ。
以来、僕の人生は使命の為に、捧げられ続けている。過去と未来を繋ぐ偉大なる架け橋の一つとなれるのだ。こんなにロマンチックなことはない。
ロマンのない人生になんの意味があろうか。そこにロマンがあるのなら、ロマンがあると知ってしまったのならば、後はそこへ突き進むしかない。少なくとも、僕はそういう生き方しか知らない。
世界は音楽で出来ている。
空の半分を占める巨大な満月の輝きも、森をさすらう風の音も、ざわめく木々の揺れも、木々の隙間をいきかう獣たちの息づかいも。それら全ての音が一つの音楽となって調和する。
それはまさに大地の歌声。
その歌声に誘われ、僕は森の闇を行く。
僕は僕の音楽を。使命という名の音楽を奏でるためにただ闇をゆく。
そのためだけに歩いてきたのだ。
ずっと。
それはもう、遥か遠く――人類がまだ地球という星で、空を見上げていた時から。
『彼方より我が声を送る。《求探の歌い手》(アーク・セブン)よ、聞こえるか』
――定時連絡。
僕は足を止め、周囲を伺う。うっそうと茂った森の中。僕の存在を気にかけるものはいない。近くの木の根元に腰を下ろし、聞こえてきた通信に返事をする。
『此方より我が声を返す。聞こえているよ、《虚像の監視者》(ミラージ・ワン)。
今宵は実にいい月夜だ。きっと何かいいことがあるに違いない』
僕の明るい声に、上司たる《虚像の監視者》(ミラージ・ワン)はただ無機質で機械的だ。
『銀河連邦星府は開拓計画の一時凍結を発表した』
前置きを置かず、ただ伝えるべき事のみを告げる声。フレンドリーさのかけらもない。
『フロンティア精神こそが銀河星府の存在意義である、て喧伝してたのはどこの誰だっけ? 政治家てのはいい加減だね』
人類が地球というゆりかごを飛び出して幾星霜。無限に広がる宇宙の果てを目指して人類は銀河の各地へと旅だった。その結果、様々な惑星が開拓され、人類の生活圏は銀河の八割に達している。
しかし、宇宙は人類にとって広大すぎたのかも知れない。ここ数年は開発計画は緩やかな縮小傾向にあり、今回の発表はそれを決定的なものにしたのだ。
『密猟者や反星府勢力は西銀河への移動を既に検討している。アンダーグラウンドの情報網はその話題が半分を占めている』
人類の停滞にさしたる感慨を持たず、上司はただ機械的に情報を述べてくる。相変わらずロマンの足りない上司だ。
『半分? なんだそれ。それ以上の重大ニュースが?』
まさかもっと酷いニュースがあるのか、と思わず身構えてしまう。
『《略奪の魔女》(プランダーウィッチ)――そう呼ばれるハッカーが最近活発に動いている。星府の情報中枢区画に侵入を繰り返し、数々の重大情報を盗み出している。自己顕示欲が強く、盗み出した情報を売りさばかず、無償で公の場に暴露することを繰り返している。数多くのハッキングを繰り返しているというのに、誰もその足跡を追跡できず、どのような方法でハッキングしているかすら定かではない』
返ってきたのは実にどうでもいい情報だった。まあでも、すごいと言えばすごい。
『へぇ。まさに《魔法使い》(ウィザード)ってヤツか』
ハッカーに限らず、その分野で類い希なる才能を示す存在のことを魔法使いと呼ぶことがある。討論が強ければ弁舌の魔術師だったり、切り返しが強ければ土俵際の魔術師だったり、演奏が上手ければ指先の魔術師だったり……世間にはとかく魔法使いが溢れているのだ。情報技術者(ハツカー)――というか、この場合は情報犯罪者(クラツカー)であるが――にとって魔法使いという称号はある種の尊称だ。
とはいえ、それを自分から名乗るなんて、えらく傲慢な人もいたものだ。
『ん? ていうか、女って分かってるの? なんで? なにか証拠でもあるの?』
『情報を公開する際に残される彼女のメッセージからそう推察されている』
『へぇ。凄い人もいたもんだね。まあ、ネットワーク上の話だから、オカマかもしれないけど。
でも、女だとしたらどんな人だろ? 食べるものから何まで管理しないと安眠できない神経質な知性派かな? それとも、暇を持てあました怠惰者で、ぶくぶくと太った典型的なヒキコモリだったりして?』
今度は返事がなかった。やはり声の主にとってはどうでもいいのだろう。いらぬ感想は持たず、ただ必要な事実を伝え、質問に答えるのみ。まったく、実につまらなくて仕事熱心な上司だ。
『でも、凄い執念だね。それだけの大事を繰り返すモチベーションはなんなんだろ。
やっぱり、好きな人が星府に殺されてその復讐とかかな? 死んだ人の為に生きるとかちょっとロマンチックだね』
僕の戯言にため息が返ってきた。その反応に軽く驚く。声の主がこんな人間的な反応を返してくるなんて初めてだ。
『《求探の歌い手》(アーク・セブン)よ』
『なんだい、《虚像の監視者》(ミラージ・ワン)』
おもしろがって呟く。今まで何度も上司とは通信してきたが、こんなケースは初めてだ。どんな言葉を投げかけてくるのか、楽しみで仕方ない。
『お前は寂しいのか?』
思いがけない言葉に、僕は言葉を失った。まさか、そんな。
『《求探の歌い手》(アーク・セブン)は代々使命中毒(ワーカーホリック)と聞く。俺の知る先代もそうであった。使命に全てを賭け、使命に尽くしていれば他は何もいらないと言っていた』
『僕もそのつもりさ。こんな素晴らしい一族の使命を担う事が出来て誇りに思う』
反射的に言葉を返す。繰り返すまでもなく、使命は僕の全てだ。それを否定することは僕が許さない。使命があれば他には何もいらない。なにも、だ。
――なのに寂しいなどと、そんなはずが。
『でも、……そうかも知れないな』
口をついて出た言葉に自分でも驚く。使命を受け継ぎ、星々を旅するようになって四年間。僕はずっと一人だった。がむしゃらに使命の為に生きてきた。
『仲間なら居る。一族の全てが使命のために動いている』
『――分かっている。ありがとう』
相変わらず、返答はない。けれど、この沈黙は男の不器用な返答なのだろう。少なくとも僕はそう信じたい。
『でも、驚いたな。普通に喋れるじゃないか、ミラージ・ワン』
『私も人間だからな』
『そんな合成音声で言われてもなぁ。僕はてっきりロボットだと思っていた』
『君も私も、使命の人形である事に代わりはない』
そう言って通信は途絶えた。あるいは彼なりの照れ隠しだったのかもしれない。
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このノリに読者はついてこないんじゃないかなぁ。
というか、この主人公はそれでなくても、「使命が全てだ」とか「世界は音楽で出来ている(キリッ」とか言うタイプのメルヘンなところがあるからなぁ(笑) いや、世界は音楽で出来ている、てのは音を操る能力を持ってるからそう思考するのは間違いじゃないんだけど(笑)
こないだ知り合いに「哲学さんの小説で感情移入しづらいのは普通の感覚の持ち主のキャラがいないから」と言われたけど、確かにその通りなんだよねぇ。癖の強い狂人や変人を主人公にするよりは、ありきたりで平凡でも、まともな人間の方が読者は取っつきやすいんだよねぇ。
どうしようかしら。
三人称に戻してリライトを続けるか、一旦別の作品の制作に切り替えるか。
三人称でするにしても、この軽くメルヘンなところのある主人公を上手く見せるやり方を考えないと厳しい。
うーん、……考え中。