ルーデンス×ディグニティ 転章

 前回の続き。
 接続が悪い。
 色々と書き直したいけど、ともかく時間がないので走り書きを続ける。
 話の流れ的には

序章
第一章
転章
第二章
転章
第三章
終章

 な感じになる予定?


転章

 世の中には天才と呼ばれる人種が居る。
 他の人よりも飛び抜けて秀でた力を持つ者達。
 俺は自分の事を天才だと思ったことはない。
 だが、間違いなく天才だと思える人物を知っていた。
 俺の兄だ。
 兄は勉強の苦手な男だった。昔から学業成績は悪く、学校の通信簿はすこぶる悪かった。
 だが、ゲームに関して打破間違いなく天才だった。
 格闘ゲームであろうと、パズルゲームであろうと、あるいはトランプやダイスを使ったアナログゲームであろうと、兄は負け知らずだった。
 小学校高学年からメキメキと頭角を現し、中学に入学するくらいには日本で兄に勝てる者はいなくなっていた。さすがにプロ棋士と戦ったことはないが、将棋や囲碁においても、アマチュア棋士などと戦っても、兄は敗北しなかった。
 自分の親のことを客観的に見ることは非常に難しい。だから、これは俺の主観的な感想になるのだけれど、いい加減な親だったと思う。前述のような兄だから、ゲームはあれほど強いというのに勉強の成績は非常に悪く、中学の先生から「まともな高校に入るのは難しいです」と言われていたのに「じゃ、中卒でいいです」と言い放ったのだから。
 兄本人も「俺は中学卒業したらプロゲーマーとして働くよ」と言っていた。かくのごとく、かなりその場のノリで生きているような人達だった。最終的に厳格な祖父が父を呼びつけて叱りつけ、ともかく高校くらいは卒業させろ、と命じ、結果的に兄は特待生扱いでそれなりの高校に入りなんとか卒業した。
 そんないい加減な家族に過去回れていたにも関わらず、俺はどちらかと言えば真面目人間に育った。厳格な祖父に懐いていたせいもあるかもしれない。華々しい世界で、トロフィーを増やしていく兄とは対照的に、俺はただ黙々と勉強をし、成績を伸ばした。
 何度も、全国模試で上位百人以内にランクインしたが、両親の反応は微妙だった。
「でも、一番ちゃうねんなー」「兄ちゃんは日本で一番やのになぁ」「お前も頑張って一番を目指せや」「そうそう、兄ちゃんみたいになー」
 そんなことを何度も言われた。祖父だけは俺のことをよく頑張ったと褒めてくれたけれど、子供心に両親は自分のことを正当に評価してくれないという想いを燻らせていった。
 そんな中学時代を送っていた俺に転機が訪れる。
 学校行事で立ち寄ったとある美術館で美しい陶器に出会ったのだ。不思議で、とても美しい陶器だった。俺は感動のあまり言葉を失い、茫然とその陶器を見入った。
 けれども、一緒にいた友人達の誰一人としてその陶器のよさを理解できなかった。引率の先生達ですら、俺の言うことを理解して貰えず、むしろ他の陶器に比べて劣るとすら言った。
 俺は美術館の人に詰め寄った。この陶器がこの美術館で一番すごいものだ、と。しかし、返ってきた言葉は俺の想像だにしないものだった。
「美術に一番なんてものはないで」
 それは陳腐で何も驚くべき言葉ではなかったのかもしれない。けれど――。
「それぞれが、それぞれの美しさがあるや。
 他より美しくなろうとする必要なんてない。
 それぞれが、自分らしさを発揮できたらそれでええんよ」
 「だったらなんで美術コンテストがあるんだ」とか「じゃあ美術品ごとの値段の差異はなんなんだ」とかそんな生意気なことをその場では言ったと思う。でも、美術館から帰った後も俺の脳裏にはその美術館の人の言葉が何度も何度も反芻した。
 勝負の世界で、勝ち続ける兄になんとか勝とうと躍起になっていた俺にとってその言葉は天啓であり、救いだった。
 次の日から、俺もまた兄と同じように勉強がおざなりになった。代わりに、芸術の分野にのめり込んでいった。親は何も言わなかった。好きなことをすればいい、と言ってくれた。その点についてはとても感謝している。勉強の点数で人間の価値を決めない、という点においてうちの親は偉大だったのではないか、と今にして思う。
 ただ、あれほど仲のよかった祖父とは疎遠になってしまった。
 俺は手先が器用ではなかったので、絵を描いても、粘土をいじくってもなかなか結果が出せなかった。どんなコンクールに送っても、せいぜい参加賞の筆とかが贈られたりする程度だ。
 それでも、中学の卒業が迫った頃、とあるコンクールに俺の描いた絵が入賞し、展示会に出されることになった。そのことを両親に報告しても、「へー、やっと入選したんか」とそっけないものだった。今度はゲームの世界大会にでるという兄と比べれば実にちっぽけでどうでもいいことだったに違いない。
 けれど、それを横で聞いていた兄は「すごいじゃないか」と言って俺を褒めてくれた。兄弟仲は悪くなかった。むしろ、両親が俺を軽んじる以上に兄は俺を大事にしてくれたように思う。
 兄は勉強なんてどうでもいい、と言う人間だったので、俺がいくら学校の成績がよくても両親同様に俺のことを評価せず、「そんなんより俺と遊ぼうぜ」と勉強の邪魔をする人間だった。そんな兄でも『何かの賞を取った』と言うことには「お、すげーな」と言ってくれたのである。
 結局、展示会へは兄と二人で行った。兄は居並ぶ作品を見て「さっぱり分からんわ」と首をひねった。だが、それでも俺の作品を見つけると、「やったやんけ」と喜んでくれた。そこまではごくありふれた話だった。
 しかし、俺はその展示会であの人に出会ってしまった。何故あんな偶然が起きたのか、俺には分からない。あるいは、ああいう出会いのことを運命と呼ぶのかもしれない。
 展示会の端に飾られているとある絵に俺は目を奪われた。一目見て分かった。この絵の作者は、以前、俺が芸術の道を志すきっかけとなったあの陶器の作者と同じであること。作風というのか、絵と陶器の違いはあれど、作品から感じる空気がとても似通っていたのだ。見間違えるはずがない。
 俺はつい、聞いてしまった。あの絵の持ち主はどこにいるのか、と。
 展示会にいた係員の解答は単純明快だった。あちらにいる女性です、と。
 振り向いた先にいたのは――不思議な女だった。
 年齢は分からない。見た目には二十代にも見えたし、四十代にも見えた。いわゆる年齢不詳の女、と言う奴だ。老人のようでもあり、子供のようでもあり――なんだか掴み所のない人だった。
 ファンであると告げると、相手は大変喜んでくれた。しかし、それ以上に相手が喜んだのは、俺に同行していた兄と出会えたことだった。その女芸術家は兄にサインをねだり、俺をそっちのけで兄と会話を始めた。
 そこで彼女は不思議なことを言い出した。
「――実は私、魔法使いなの」
 訳の分からないことを言う人だった。
 だが、この人と出会った結果――兄は死に、俺は家を出ることとなる。



つづく


 主人公の路線と、梨子先輩の路線が違いすぎて色々と分裂気味。
 ていうか、哲学さんはもしかしたら暗い話というか悲劇の方が書きやすいのかな〜。むむーん。