試行錯誤中

 何度か書いてるけど、哲学さんの話は多くの場合世界観とか、雰囲気とか、シチュエーションから入る。そっから着想して作っていく。キャラクターは大体二の次。
 ストーリーがキャラクターを作る。あるいは、世界観がキャラクターを作る。もしくは、シチュエーションがキャラクターを作る。作る、は育てる、に言い換えてもいいかもしれない。
 その上で逆に、できあがったキャラクターを扱うと暴発してる感じ。
 二次創作をする時はそういう訳でもないのだけれど、ここら辺のすり合わせが下手だなぁ。



 例えば、月明かりを歩いている人がいるとしよう。なんで歩いてるのだろう。なんでこんな夜更けに歩いてるのか。2014/04/15は日本で赤い月が観測できる日だったので「こんなにも月が紅いから」と格好つけるためだけに出てきたけど、月を見たらなんだか満足してすることがなくなって、コンビニに向かうことにしたのかも知れない。
 ということは、こいつはきっと優柔不断な女で、代わりに親か妹はきっとしっかり者。だらしがない悪友と、優柔不断を糾弾してくる仲の悪い腐れ縁がいて……そんな人生を送ってるこの男の前に突如として現れるのは誰がいいか?
 そうだなー、紅い月を見て驚いてる頭の悪そうなメガネっ子とかどうだろうか。思い込みが激しくて、衝動的で、うるさくて、チョロい子とか。
(※参考URL:http://matome.naver.jp/odai/2139749545834905601)



 ……くらいまで妄想したらもう大体簡単な話の冒頭は書ける感覚がある。
 そうだなー、例えば

「ああ、こんなにも月が紅いから」
 ――なーんて、台詞がゲームにあったなぁ。
 そんなことを思いながら俺は空を見上げていた。
 紅い。
 月が実に紅い。
 英語ではブラッドムーン、と呼ぶのだとか。
 地震の前兆だとか、凶兆の代名詞らしく、ゲームとかで似たようなシーンを幾つか見たことがある。
「けど、まさか本当に見れるとはなぁ。赤い月とか現実にはないものだと思ってたわ」
 実際の現象は皆既月食なのだとか。
 とはいえ、珍しいもの見たさに外に出てきたけれど、やることがない。
 このまま帰ってもいいけれど、せっかく外に出たのに何もせずに家に帰るのは勿体ない気がした。宿題をサボる名目もかねて出てきたのに直ぐに戻ったら口うるさい妹の小言を聴くはめになりそうだ。
 ――よし、コンビニでも行って時間でも潰すか。
 そう決めると俺は暗闇の中を鼻歌交じりに歩き出す。そう言えば紅い月は現象としては「皆既月食」なので、月が出ている割に非常に暗かった。月が見えてるのに星も見えているのはなんだか不思議な気分だ。
ガシャァァァン
 そんな俺の思索を打ち破るかのような大きな音がする。
 びっくりして音がした方向を見ると自転車が倒れていた。運転していたのはメガネの女子のようだった。
「おい、あんた……大丈夫か?」
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁ! この世の終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 俺が話しかけると同時に女の子が発狂し出す。
 え? 何? いきなりこの子どうしたの? サタニックな展開過ぎてついていけないんだけど!!
「ちょ、どうしたんだよ一体!」
「月が紅い! もうこの世の終わりよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 思わず閉口する。この科学万能の時代に中世の人間みたいなパニクり方しやがって。
「落ち着け! あれはただの皆既月食だ! この世の終わりじゃない!」
「う……うっそだぁぁぁぁ! 皆既月食だったら月が見えなくなるんじゃない?」
「ぐっ……えーと、それはあれだ、月と太陽と地球の配列によって赤外線的な何かでちょっと紅く見えてるんだよ!」
「赤外線が目に見える訳ないでしょ!?」
「なんでそこは科学的な反論なんだ!」
「完全論破……! すなわち、世界の終わり。QED.!!!」
「仮定と結論の間省きすぎだろう! てめー、メガネ書けてる癖にバカだな?」
「何言ってるのよ! このメガネは子供の頃からずっと、長い時間ゲームし続けたという努力の証で――」
「そういうのをバカっていうんだよ! つーか、そもそもなんで月が紅いだけで世界は滅ぶんだよ?」
「……………………いいのよ、細かいことは!」
「考えてねーのかよ!」
「大体こんなこと言ってる間に皆既月食終わったじゃネーか!」
「ああ、もう世界は終わりを迎えてしまったのね。これからは末世。退廃と混乱の時代が来るのね」
「言っておくけど、末世は千年前にもう来てるからな。ばかじゃねーの?
 お前みたいなのは平等院鳳凰堂を作るだけ作って死ね!」
「はぁ? なんで初対面の人間にそこまで言われないといけないのよ?
 あんたこそへりくつこねすぎて受験に失敗すればいい!」
「え? あんたもしかして受験生? 俺より年上かよっ!」
「あっ! そうだ! 受験勉強用のドーピングリポビタンが切れたから買い出しに来たんだった」
「なんで四月からそんなに修羅場ってんだ、お前」
「決まってるでしょ? 今週の模試の結果次第では受験諦めて出家しないといけないからよ」
「えー? まさかの宗教路線」
「いやよ! 受験に失敗して、恋もしないまま、頭を禿にして山奥の枯れ寺に引きこもる生活に入るなんて!」
「んーでも、お前みたいな落ち着きのなさそうな人間は俗世から離れて霞でも食べてる方がいいもかしれんな。案外親御さんに見目があるのかもしれん」
 つーか、出家するならするで宗教系の大学いかないといけない気がするのだが。
 いや、そもそもなんで俺はこんなバカ女とこんな会話してるんだ? この女がどうなろうとしったことないのに。
「……よし。話はおしまいだ。あんたがなんであれ、俺には関係ない。好きに生きてくれ」
「いやだ! 待ちなさいよ! 今ここで会話が終わったらせっかくの現実逃避が終わって勉強しに戻らないといけないじゃないっ!」
「知るか! 離せ!」
 ――くそう、この女結構いい身体してやがる! 抱きつかれたらやたら柔らかい感触が来てるぞ! ずるい!
「はっ!なっ!せっ!」
「いいや! 私の! 現実逃避のため! 離すのをやめない!」
「ふんぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ」
「……なにやってるの君たち?」
 不意に声をかけられ俺はハッとする。
 周囲を見回すといつの間にか数人のギャラリーと呆れた顔の駐在さんが目の前に立っていた。
「取りあえず……そこで話を聞こうか」
 こうして俺達は仲良くコンビニの横の交番で説教されることとなるのであった。

 なんか書いてるうちにすっごい惰性でいつまでもおわんなくなったので強引に締めた。
 まー、こんな感じで書くからキャラクターが弱いんだよなぁ……というところで寝る。