バトル物の話

<本当に強い奴は戦わない>

 バトル物を書きたい訳だけど、現代を舞台にすると色々と困る。
 現代はいろいろなものが複雑になったせいで、巨悪を一人倒せばそれで全てが解決するような単純構造にはなってないからだ。トップの首を変えたところで大して変わらず、大魔王を倒してめでたしめでたしには決してならない。問題の先延ばしになってしまうだけだ。
 凄く強い主人公が凄く強い敵を倒しても意味はなく、むしろ誰よりも弱いじじい達が誰よりも恐ろしい世界だ。ままれさんの『まおゆう』はそこら辺の突破口が開かれてて、本当に名著だと改めて思わされる。
 ともかく、個人の武勇ではほとんど世界は変えられない。
 とはいえ、個人の武勇ってバトルものでは欠かせないもので、強者と強者の戦いは心躍る。
 だが、本当に強いとは何か、とか突き詰めていくともう、バトルしなくなってしまう。
 ざっと単純に図式化すると




Level1.素人。基礎を積む修練期(他人と戦う前にまず自分が未熟すぎる)

−−−素人とアマチュアの境界−−−

Level2.アマチュア。他者と戦いたくなる時期(一般人より少し強くなったので他人と戦いたくなる)

−−−アマチュアと玄人の境界−−−

Level3.玄人。自分と戦うことに気付く(他人と戦うよりも己に打ち勝つことが大事と気付く)

−−−玄人と達人の境界−−−

Level4.達人。生きることが修練。他人と戦うまでもない。『無我の境地』の入り口

−−−達人と超人の境界−−−

Level5.超人。『全は一、一は全』の境地。(世界と感覚が溶け合っていく。全てを肯定。戦う意味すら消失。仙人とかはこの辺)

−−−超人と神人の境界−−−

Level6.神人。宇宙と魂が呼応する。息吹が風となり、激情は嵐となり、穏やかな心は嵐をも吹き払う。
精神が世界と溶け合っているため、心のうねりがダイレクトに天候や地球の地脈・霊脈に影響する。
多くの場合、物質世界から高次元世界へと旅立つ。



 ちなみに、戦闘能力ほぼなしでLevel4−6の境地に到達する人物が時々歴史上にはいて、そういう人達は絶大なカリスマ性を持って、『王』になったり、『聖者』になったりする。ヴィンラント・サガのクヌート王子カッコイイ。
 ここら辺の変遷は思想界でも色々とあって、たとえばニーチェは『らくだの如くただ周りの言うことを聞いて学ぶ→学んだものを力に変えて獅子の声で周りと戦う→赤子の心を持って全てを肯定する』という『らくだ・獅子・赤子』の三態を定義してたりする。
 大乗仏教だと、「天部→明王→菩薩→如来」と変遷して「天部」とかはまだまだ修行が足りなくて、「明王」は達人だけどまだ他者と戦う、「菩薩」になって、他者と戦わなくなり、「如来」で生死を超越。
 なんにしても、強くなればなるほど他人と戦わなくなっていくので、バトル物としては強くなりすぎるとだめなのだ。

 なので、大抵のバトル物は「Level1.素人〜4.達人」の間を楽しむものだ。
 で、話し的には大体「Level3.玄人」から「Level4.達人」の入り口くらいの成長を楽しむ。
 「Level4.達人」以上のものはエンターテイメントにしにくかったり、エンターテイメントにするとざっくりと大雑把で大味な感じにしてごまかしたり、訳わかんないことになったりする。
 まあ、大体は「Level4.達人−5.超人」くらいにまで到達したのに弱さを捨てきれず、人間らしい感情を持ったまま「この世界はダメだ」と悲劇に狂った奴らがラスボスになって、そういうやつを「Level3.達人」クラスの主人公達が力を合わせたり、唐突なパワーアップや悟りによる瞬間最大風速的な一撃で倒したりしてエンドする。
 これが大体大雑把なバトル物の構造。もちろん、あくまでスタンダードであり、これがすべてであり。
 これを踏まえれば、空手ものでも、柔道ものでも、将棋ものでも、魔法ものでも、剣豪ものでも、ぷよぷよものでも書けなくはない。
 ただ、これだけだと、全部やってることは同じになってしまう。
 大体はLevelが1→2に上がる時の「気づき」とか、Level2→3へ上がる時の「気づき」とか、ともかく覚醒や視野の広がりがメインになってきたりする。
 で、後はそれの表現の仕方が変わるだけ。その気づきが『かかと落とし』になったり、『ぷよぷよ究極連鎖法』になったり、『背負い投げ』になったり、『昇竜拳』になったり、『居合抜き』になったり、『天翔龍閃』になったり、『エンディングが見えた』になったり……さまざま。
 要は、演出を楽しむだけで、本質は一緒だ。
 とはいえ、この演出が楽しい。それに組み合わせを変えるだけでこの成長というのは結構楽しめてしまう。
 まあ、面白ければそれでいいんだけど、最近この手の話が減ってるのは、こういうのに市場全体が飽きてるのだろうか。
 いや、勿論今もジャンプをはじめとして王道バトルものってあるんだけど、もっと増えていいと思う。

<そんな訳で>

 軽くバトルものの概論もどきをまとめてみた哲学さんです。
 今の流行でバトルものを書こうとすればもう、恋愛バトルものくらいしかなさそうな気がします。
 呼吸するだけで周りの人間を妊娠させる美少年とか、見つめるだけで人を恋に落とす美少女とか、存在するだけで周囲の人間が発情する美中年とか、声を発するだけで周りの人間が跪く美熟女とかが跋扈する超人バトルとか。
 ……どう考えても男も妊娠させる美少年の一人勝ちです。本当にありがとうございました。
 エンディングが見えたどころの話じゃなくて出会った瞬間にエンディングですよ。酷い。
 ところがこの美少年が一人の女幽霊と出会って、その幽霊に惚れてしまい、彼女と一緒になるために地獄道、餓鬼道、畜生道修羅道、人間道、天道、と六道を旅して次々と周囲の奴らを妊娠させながら、如来達も妊娠させて、最後に幽霊の女の子を転生させて美少年はそれで満足して死んでしまうファンタジーとか誰も読みたくないよね。エロゲでやれ。
 ちなみに、その話の続編は、幽霊になった美少年と転生した女の子に目をつけたアフラ・マズダーによって真実の愛を探すために世界を旅するように天命を受けることになります。あ、もちろんアフラ・マズダーはこの時点で美少年の子供を妊娠してるに決まってます。
 やっべ、続きが気になってきたので誰か代わりに書いてくれませんか?
 たぶんラストはアフラ・マズダーとアンリ・マンユによる愛の探求によって新世界の創造が起こって、美少年と少女がやっと結ばれると思うので。あー、エロゲでやれ。
 ていうか、誰が読みたいんだそんな話。


 それはともかく、バトルもの書きたいなぁ。そう思いました。