即興小説その13

 毎日短編書いて小説力をあげようキャンペーンその13。

(http://d.hatena.ne.jp/kaien+B/20130815/p1)

○今回のプロット
 お題メーカーより。

哲学は「鳥」「サボテン」「最高の記憶」を使って創作するんだ!ジャンルは「ギャグコメ」だよ!頑張ってね! http://shindanmaker.com/58531

 うーん、鳥とサボテンの思い出を回想する話でもするか。オーソドックスに。
 


 最高の記憶とはなんだろう。
 ボクにはそんなものはない。
 ただ、変わらない日々と、最低の日常があるだけだ。
 ボクの頭の中に蓄積されていくのはそんなネガティヴなことばかり。
 楽しいこと、嬉しいことなんてない。
 サボテンのようにとがった心の人々に囲まれて、このボクはただただ空を見上げる。
 自由に空を舞う鳥は、家という駕籠に閉じ込められたボクからすればひどくうらやましく、ねたましい存在だ。
 けれども――。
「私は鳥が好きなの」
 その人はそんな鳥が好きだと言った。
 黒いブラの上からサボテンの模様のついたアロハシャツを着たへそ丸出しのホットパンツ姿の女性だ。
 彼女の視線はグラサンのせいでよく分からないけれど、やっぱり窓の外の鳥を見つめていた。
「どうしてですか?」
 ボクの問いに彼女は笑みを浮かべた。
「なんか昔いいことがあったのよ。何か忘れたけど」
「忘れたのにいいことって分かるんですか?」
「ええそうよ。そう言う経験ってない?修学旅行に行ったけど、なにしたかよく覚えてないけど楽しかった、みたいな」
「ないですね」
 ボクにいい思い出なんてない。
 ずっとずっと、ベッドに寝たきりで、ずっとずっと同じ風景をベッドの上から見るだけだ。
 いい記憶なんてない。
「そう? でも、それじゃ困るわね。私は最高の記憶を探してやってきたのだから」
 アロハシャツのグラサン女はそう言って室内を見回した。
 しかし、目に映るのはせいぜい白いベッドと、その上に横たわるボク。そしていくつかの本棚くらいなものだろう。
「それなら余所をあたってよ。少なくとも、ボクの部屋じゃない。金目の物はここにないよ」
「それは嘘ね。少なくとも、あなたが今飲んでる薬はそれだけで百万円もするし、このベッドもなにげにシーツが五十万円もするいいやつじゃない」
 五十万円のシーツ、と言われてもよく分からない。そもそも、お金を使ったことがないのでそれが高いのか安いのかもよく分からない。
「なら、好きにすればいいよ。本棚においてある薬箱に同じ薬がいくつか入ってる。持って行けばいい」
「サボテンのように冷たい子ね。お金はいらないって言ってるでしょ」
 この泥棒は何が言いたいのだろう。
 窓から不法侵入したかと思えば、記憶が欲しいとか訳の分からないことを言う。
 ヒントが欲しい、と言えば鳥が好きだという。
 まったく分からない。
「あなたが好きな物は何?」
「……何もないです」
 思わずむすっとした顔をしたボクを見て彼女は笑った。
「何がおかしいんです?」
「だって、この世の不幸をすべて背負ってます、て顔してるもの」
「ボクが不幸なのは見れば分かるでしょ?」
「さあ、ね。あなたの病気、普通なら治療費が払えなくて一年も生き延びれないわ。
 それがもう五年以上も生きてる。
 少なくとも、金持ちの家に生まれてラッキーなのは確かね」
 よく知らないけれど、彼女はボクのことをよく分かってるらしい。
「困ったわね。あのおっさんは、この日が人生最良の日だった、て言ってたのに」
 不思議な言い回しだった。
 この日が人生最良の日、てまるで今日という日を既に経験したことがあるような――。
「まさか未来から来た?」
 愕然とするボクに女の人はただ笑みを深めた。
「も、もしかして、おじさんて……ボクは大人になるまで生きることが出来るの?」
 ボクの問いに彼女はやはり答えない。でも、否定もしなかった。
「……ボクは、まだ生きていられるか」
 それを知った途端、色々と、ボクの心の中にくすぶっていた物がすっと消えた気がした。
 窓の外を鳥が飛んでいく。
 それを見ても、ボクはねたましいと思わなかった。
「その笑顔――いただくわ」
 ぱしゃり、と彼女は手にしていた携帯機器でボクの顔を撮った。
 何がしたいんだろう。こんな、ボクの泣き顔なんて撮って――。
「最高の記憶――確かにいただいたよ」
 そう言ってアロハシャツの女の人は窓の外へ逃げていった。
 一体何がしたかったのか。
 とはいえ、追いかける必要はない。なぜなら。
「おっさんになったらまた会えるよね」
 その日が来るのを楽しみに、ボクは今日も生きようと思った。
 少なくとも、あのお姉さんがなぜやってきたかを知るまでボクは死ねない。
 窓の外を再び鳥が飛んでいた。
 駕籠の中の鳥と違い、彼らはいつ死ぬか分からない。
 けれども、自分は違う。
 もう、ボクは彼らをうらやましいと思わなくなっていた。
「よし、頑張ろう」
 ボクはもう一度生きることを決意した。




 もうギャグコメとか気にせず書いてる哲学さん。
 相変わらずなんだこれ。
 まあいいや、寝る。