短編:ルーデンス・ディグニティ/アーク・ファンタジア
ま、ぱぱっ、と出します。
書く時に気をつけたのは、「現実で可能な範囲のことだけを書く」、て感じです。
SF(オーバーテクノロジー)なし、ファンタジー(魔法)なし、な話です。
「夢の国へ行ってみたいと思ったことはないかい?」
唐突な言葉に俺は読んでいた本から顔を上げ、言葉の主を見た。
「……話の意図が分からないが」
「簡単な話だよ。絵本でもいいし、マンガやアニメ、ゲーム……なんでもいいんだ。
空想の世界に行ってみたい、と思ったことはないかい?
見たこともない世界、現実ではあり得ないような容姿をしたキャラクター達と出会いたい、とかね」
俺はため息をついた。
「なんていうか、俺としたらお前がいればそれで十分だな」
「おや、珍しいね。ボクを口説いてるのかい?」
くすりと微笑む相手に俺はいつものように苦虫を潰したような顔になる。
「お前の存在そのものがありえない、て言ってるんだ」
「それはご愛敬だね。ボクからしたら、キミだって奇蹟のような存在なんだけれどね」
そう言って優雅に笑う相手は気品に満ちていて、実に浮世離れしている。
艶のある長い黒髪に、透き通るような蒼い眼とシミ一つない雪のような白い肌。淡いモスグリーンのフリルドレスに身を包む――絶世の美女ならぬ絶世の美少女とも言うべき存在。その仕草一つ一つが完成された貴族のそれであり、弱冠十歳ながら幼いまま千年の時を経た吸血鬼を思わせる妖艶な雰囲気を漂わせている。
ミラン・フォン・ガートランド。ドイツ貴族の末裔ガートランド家の現当主にして、俺の《飼い主》(パトロン)である。
「十歳で大学に在籍している天才児なんて俺からしたらファンタジーだよ」
「偏見だよ。日本はともかく、海外なら意外といるものだよ、ローティーンの大学生」
「いても一握りだろう」
それに、ローティーンの大学生がそれなりに数が居たとしても、やはりミランのような美しい存在はファンタジーとしか言えない。しかも、こんな格好をしているが彼は少年――男である。何故ミランが女装をしているかと言えば本人曰く、その方が似合っているからだ、だそうだ。実際、ミランが男装をしていても、それはボーイッシュな美少女にしか見えず、多くの少女よりも少女らしいので始末におえない。
事実は小説よりも奇なり、と言うが、ミランはまさにその体現と言えるだろう。
「――ふふふ、褒め言葉ととっておくよ。ありがとう」
素直なミランの言葉に俺は相手が男だと分かっていながらも、気恥ずかしい気分になる。五歳も年下で、しかも同性相手にこんな感覚に陥るのだから、やはりミランはファンタジーな存在と言わざるをえない。
そんなミランに比べれば、対面に座るこの俺――粟井友重など取るに足らないただの十五歳の高校一年生と言わざるを得ない。若干普通じゃないのは自覚しているが、それでもミランには劣るというものだ。
「話が逸れたね。結局、空想上の世界に行ってみたいと、思ったことはないのかい?」
「ない、と言ったら嘘になるが、それを夢見る時期はとうに過ぎたな。今は日々を生きるのに精一杯だ」
「あはは、枯れてるねえ。そんなので芸術家の卵のつもりかい? パトロンとしてはもう少し夢見がちな方が好みかな」
「鋭意努力するさ。
お前はあるのか? 空想世界というか、二次元な世界に行きたいとか思ったことが」
ミランは勿論だとも、と大仰に頷く。
「でもまあ、現実的に考えてそれは無理だろう。天才科学者のミラン様といえど、そんなことまで実現できまい」
「――甘いね。そこで必要なのは発想の転換だよ」
「ほう?」
きょとんとする俺をよそに、彼は机の下から小さな眼鏡を取り出す。
「逆に考えるんだ。二次元の世界にいけないのなら、二次元の世界が現実世界に来てしまえばいいいんだってね」
ルーデンス・ディグニティ
〜アーク・ファンタジア〜
「とうとう気でも狂ったか?」
常人よりも頭のよすぎる人間はしばしばその能力を持てあまし、いつしか現実離れした空想にとりつかれて狂ってしまう――なんてのはよく聞く話だが。若い頃は神童と呼ばれた天才達もその末期の多くは非業の死であることが多い。あるいは先進的すぎるその思想に周りがついて行けず、周りから狂人扱いされることも多々あることだが、さすがに二次元を現実世界に持ってくるというのは無茶が過ぎる。
「AR(アーエル)技術を知らないのかい?」
「アーエル? えーと、英語読みだとAR技術ってことか」
ミランはドイツ人なこともあり、しばしばアルファベットがドイツ語読みで発音されることがある。最近は慣れたが、出会った頃はそれが原因で意思疎通がうまく行かなかったが、今となってはいい思い出である。
「そう。日本語では、拡張現実って訳されるね。その名の通り、現実を拡張する技術さ」
「拡張ったって、どうするんだ? 四次元ポケットみたいに、この世界を別次元へ繋いで拡張するのか?」
俺の言葉にミランはおおっ、と驚いた顔をする。
「それは面白いアイデアだね。さすがはエンターテイメント文化の発達した日本人だ。
そのアイデアはボクも思いつかなかったね」
「……いつも思うけど、こんな程度のことでいちいち感心されるとむず痒くて仕方ない」
俺の適当に言った言葉にミランは過剰反応することがある。いつもの事と言えば、いつものことだが、こればっかりは慣れない。
「残念ながら、今の技術じゃそこまでできないかな。
まあ、あれこれ口で説明するより、体験する方が早いだろうね。この眼鏡をつけてよ」
そう言ってミランは手にしていた眼鏡を俺に渡す。
渡された眼鏡はスキーのゴーグルのような形をしていた。おそらく普通の眼鏡の上からも装着できるに違いない。前面は縁も含めて全て透明だが、耳かけの部分は黒く、普通のものより大きい。
装着してみると、なんと空中に『START UP』と言う文字が浮き上がった。それに続いて様々な文字が俺の周囲に浮かび上がっては消えていく。何事か、と驚くが、眼鏡をずらして見てみると現実にはそんな文字は浮かんでいない。
眼鏡の内部をみてようやくそれが眼鏡のレンズ部分に描画されているのだと気付いた。透明な部分はレンズではなく、透過式のディスプレイだったらしい。
ちらりとミランを見ると、悪戯に成功した子供のような、年相応の笑みを浮かべていた。
「分類で言えば眼鏡と言うより、ヘッドマウントディスプレイ――あるいはヘッドウェアかな。
これでボクの言いたいことは分かっただろう?」
いつの間にかミランも俺と同じヘッドウェアを装着していた。
「……なんとなく見えてきたな」
俺も改めて装着すると、起動処理は終わっており、自分の斜め上の位置に日にちと時刻を表す緑の文字が浮いているのが見えた。秒を表すところがリアルタイムに変動している。形状としてはメタリックなポリゴンの文字だ。
試しに手を伸ばすが当然のことながら俺の手は空を切り、視界の上では文字の上を透過していく腕が見える。人差し指でつつくと一瞬発光するが、動くことはない。ふと思い立って人差し指と中指の二本指でつついてみると、ポリゴンの文字は二本指に触れると同時に連動して移動した。素早く右方向にスライドさせると、文字は中空に消える。
――なるほど、分かってきた。
文字が消えた後、二本指がたまたまミランを指さす形になったのだが、今度はミランの体を包み込むように緑の枠線が浮かび上がる。そのまま二本指をパソコンのマウスでクリックする感覚で軽く指を曲げると、『ミラン・フォン・ガートランド/ドイツ国籍/10歳/性別:男/身長:120cm』と言う文字が浮かび上がった。指をスライドさせ、今度はさっきまで読んでいた本に照準を合わせてクリックすると、同じく本のタイトルや著者名、出版社名などが表示される。
「これは――『スカウター』だな。ドラゴンボールに出てくる奴」
俺が生まれる前の作品だが、日本を代表するかの有名な傑作マンガ『ドラゴンボール』には相手の強さを計測する眼鏡アイテムが出てくる。あれによく似ている、と俺は思った。
もっとも、ミランに渡されたこのヘッドウェアは『クリックした物体のプロパティを表示する』と言う感じだが。
「最近復刻版で読んだことあるけど、そうか、スカウターが作られる時代になったのか」
「ふふふ。技術の革新とはスゴイものだろう?」
ミランは我がことのようににやりと笑みを浮かべる。
「……やっぱりお前が作ったのか、これ?」
「正確に言えば、ボクが所属していた大学の研究チームが、ね。知っての通り、ボクは今休学中だけど開発には少し関係してる。日本語でこういうのを『一枚噛む』って言うんだろ?」
「ああ、それで合ってる」
ミランがどこまで関わっていたか分からないが、さすがと言わざるを得ない。ドイツの大学はこんな研究をしていたのか。
「これが実用化されれば、たとえば、医師が患者を診れば病歴や過去カルテを一目で閲覧できたり、警察が街ゆく人の中から一目で犯罪歴のある人を識別出来たり、あるいは道ばたでばったり出会った知り合いの名前を久しぶりすぎて思い出せず困ることもなくなるよ」
「……個人情報的に問題ないか?」
「もちろん、情報の開示は指定できるようにするさ。さっき言った犯罪歴とかは警察みたいな権限のある人しか見れないようにしたり、女性の年齢や体重は本人の了解なしには見えないようにするよ」
「いや、別に女性じゃなくても個人情報は見えないようにするべきだろう」
「冗談だよ。ちゃんとボクも性別を見れないようにするつもりさ」
ミランはウインク一つして笑う。それはただ単に、女の子の振りをしてみんなを振り回す現状を維持したいだけじゃないか、と思ったが「キミはボクに振り回されてるのかい?」と聞かれる気がしたのでやめた。
――ま、言うまでもなく、振り回されてるんだけどな。
「さて、ここからが本題だよ」
ミランが二本指を中空で三角形を描くように動かす。途端、ミランを取り囲むように幾つかのアイコンが円状に浮かび上がる。ミランはその手のひらサイズのアイコンのうち一つをクリックし、何かを操作する。すると、ぽんっという小気味よい音と共に、俺とミランの間にあるテーブルの上に小さな猫が出現した。
現れた猫はさっきの文字とは違いポリゴンぽくはなく、非常にセルアニメっぽい質感をしていた。まるで、アニメの画面からキャラクターがそのまま出てきたようである。それが何をするでもなく、こたつの上の猫よろしく丸まったまま、尻尾を振ったり、あくびをしている。
「なるほど、確かにアニメの世界からやってきたみたいだな」
「だろう? 最初は実際に存在する猫の撮影情報(キヤプチヤーデータ)を利用した実写の猫の再現だったんだ。それをモデリングしなおして、セルアニメ風にデフォルメするのは大変だったよ」
「別にリアルな猫のままでもよかったんじゃないか?」
「それだとつまらないじゃないか。第一、あんまりリアル過ぎて本物と区別がつかなくなると使用者の精神に悪影響を及ぼす可能性もあるからね」
「なるほど。仮想的(ヴァーチヤル)に拡張されたキャラクターを一目で非現実存在だと分かるようにするのはその為か」
「その通り。それに、せっかくだから現実には絶対存在しないようなものを表現するからこそ面白い、とボクは思うしね」
「ふむ。なんにしても、技術の進歩ってのはスゴイもんだな」
俺の言葉にミランは肩をすくめる。
「言っても、これは既存の技術の組み合わせでしかないんだけどね」
「そうなのか?」
俺の言葉にミランは周囲に浮かび上がるリングアイコンを操作しつつ、説明する。
「似たようなことは例えば、ニンテンドー3DSや、iPhoneみたいなスマートフォンのアプリなどですでにされてるよ。
ボクはよく知らないけど、『ラブプラス』とかはニンテンドー3DSのカメラを通して架空の彼女を現実世界に表示させたり、スマートフォンのアプリで現実世界に初音ミクがいるように映すアプリがあったり、と前例は幾つもあるね」
ミランが説明しながら、指先を動かす度に、中空に『ラブプラス』のWEBサイトのウインドウが浮かび上がったり、スマートフォンのアプリのダウンロードサイトのウインドウが表示されたりする。ウェブブラウザが中空に複数浮かび上がるのを見ているとSFアニメの一コマみたいで、すごく不思議な気分になった。
「こういう指の動きをトレースする技術もマイクロソフト社のキネクトに使われてる技術の応用だしね。ボクらのプロジェクトチームがすごいのはそれらの技術を上手く組み合わせて小型のヘッドウェアにしたこと、かな」
「十分すごいだろ、それ」
改めてこの目の前にいる友人が現実離れした存在であると俺は認識する。
「じゃあ、いよいよ、今日のメイン。異次元からのキャラクターを連れてこよう」
「何? 出来るのか?」
「当たり前だよ。ボクを誰だと思ってるんだい?」
ミランは自信満々で中空のリングアイコンを操作していく。
「さあ……見てくれ! これが最先端の科学を結集し、異世界から召還したアニメキャラクターだっ!」
ミランが指を軽くふるうと、俺達の座る座席の側にぽんっ、という小気味よい音ともに等身大のアニメキャラが現れた。
現れたのはとてもとても可愛いらしい女子高生キャラクターのようだった。残念ながら、俺の知らないキャラクターなので、誰なのかは分からないが。
『はぁい! こんにちは!』
出現したアニメキャラクターは笑顔を振りまき、俺に手を振ってくる。俺はなんとも言えない顔をしてそのアニメキャラクターを見返した。
『あれ? どうしました? 私の顔に何かついてますか?』
自律型のAIが仕込んであるのか、アニメキャラクターは返事をしない俺に対して、積極的に話しかけてくる。
「どうしたんだい? 萌え萌えにならないのかい? 日本では人気のあるキャラクターだって聞いたよ?」
ミランの言葉に俺はどう答えたものか、と悩む。現れたアニメのキャラクターは小柄ながらも胸が大きくて、実に扇情的な格好をしていたのだが――。
「正直に言おう。……アニメキャラを実際に等身大にすると異様に顔と眼が大きくて逆に怖いな。着ぐるみ感が半端ない」
『ひっどーい! 私傷ついちゃいますっ!』
アニメキャラクターが胸の前で拳を作ってあざといポーズで涙目で訴えてくるが、やはり異様に頭が大きいので違和感の方が強い。この眼の大きさは九十年代のアニメだろうか。びっくりするほど眼が大きくて違和感がすごい。
「…………やっぱり?」
『ええっ! 博士までっ!? ヒドいですーっ!』
ミランの言葉に俺は顔をしかめる。
「やっぱり、ってなんだよ?」
後ろでアニメキャラクターがなにやらわめいているが、完全に無視し、俺とミランは会話する。
「はっはっはっ……ボクもそう思ったんだけどね。開発チームの何人かは『この六頭身がいいんだよ』、て聞かなくてさ」
「まあ、なんていうか、そういうのが好きな奴らにはたまらないんだろうな」
俺は苦笑しつつ、ヘッドウェアを外した。アニメキャラがのべつまくなく文句を言ってくるのがさすがにうるさくなったからだ。当然、不気味に頭の大きいアニメキャラは見えなくなる。さっきまで確かに見えていたのに不思議な気分だ。狐に化かされる、というのはこういう気分のことを言うのかも知れない。
確かに、ミランの言うとおり本当にリアルな現実と見分けのつかないキャラクターを表示できるようになってしまうと精神に異常をきたす人間が出てきてもおかしくはないかもしれない。
「キミの意見は開発チームに伝えておくよ。これはまだ試作機だしね」
「……まあ、二次元のキャラを現実につれてくるにはまだまだハードルが高いな」
ミランは俺の言葉に同意しつつ、ヘッドウェアを外す。その姿はやっぱり優雅で、どうにも現実離れしている。そのあまりにも美しい姿は、ともすればふと目を放した隙に消えてしまうんじゃないだろうか、とそんな幻想に捕らわれそうになる。
「……どうしたんだい? そんなにボクを見つめて」
「なんでもない」
視線をそらす俺に対し、ミランは先回りして顔を近づけてくる。
――近づけすぎだろ、顔。
「もしかして、ボクも本当はCGみたいな偽物じゃないか、と思ったかい?」
――嫌な勘をしている。
「ふふん、これでも最近はけっこうキミのこと分かってきたつもりだよ。
芸術家の卵だけあって、ロマンチストだね」
俺はため息をついた。
――ロマンチストなものか。俺はそんな格好いいものじゃない。
「……ただ、感傷的なだけだ」
「なら、その感傷をボクが癒してあげよう」
何を思ったか、ミランはそのままそっと手を伸ばし、座っている俺の頭の上に手を置いた。
「よしよし」
「…………」
俺は何も言えず、ただ、ミランのなすがままに仏頂面でそれを受け入れた。ミランの柔らかな指先の感触が俺の髪の上で踊る。昔、俺の髪をこんな風に撫でたのは祖父だった。最近は疎遠になって久しいが、小さな頃はよく祖父に頭を撫でて貰ったものだ。
――とはいえ、何故俺はこいつに頭を撫でられているのか。
「……なんだこれ?」
停滞していた思考がようやく現実に追いつき、俺は呟く。
「日本語でナデナデって言う行為。日本人の男はみんな好きだって聞いたよ?」
俺はミランの手を振り払い、ため息をついた。
「俺にそんなマザコンみたいな趣味はない」
「ふふん、でもボクがCGじゃないことは分かったでしょ?」
――そういえば、そんな話だったか。
俺はお返しとばかりにミランの頭に手を乗せ、撫で返してやった。
「そうだな、確かにお前は実在してるな」
嫌がるかと思ったらミランは嬉しそうに、俺の手に撫でられるままだった。ミランの美しい黒髪は手触りもよく、こいつは髪の毛まで美人なんだな、と変なことを思った。
「トモシゲってさ……」
「ん?」
「手、大きいね」
「……まあな」
――というか、お前が小さすぎるんだけどな。
十歳の子供はもっと大きいはずである。おそらくミランは平均値からも大幅に小柄ではないだろうか。それがますます彼を妖精めいた不思議な可愛さをかもしだしている。
――小さい、妖精か。
俺はふと思いついて、言ってみる。
「等身大にするから駄目なんじゃないのか?」
「何がだい?」
「さっきのヘッドウェアの話だ。
手のひらサイズとか、ミニチュアな感じにしたら違和感は減るかもな。あるいは、人間以外のロボットとか。それならリアルな体型じゃなくても気にならない」
俺の言葉にミランは目を輝かせる。
「なるほどっ! さすがはトモシゲだ!」
「いや、最初に小型の猫を作った癖に、キャラクターは等身大でしか作らない、て変なところで頭堅すぎだろ」
まあ作ってたら変な方向で思考が固まるのはよくある話だが。無重力状態でボールペンが使えないと気付いたアメリカは何億もかけて無重力でも使えるボールペンを開発したが、ロシアは無重力でも使える鉛筆を採用したのは有名な話だ。考えすぎるあまり、単純な抜け道に気付けなくなる、ということは現実では往々にしてあることなのだ。
「なるほどっ! 参考にするよ。そうと決まれば担当者と相談してくるっ!」
そういってミランはスカートの裾をつまみ、とてとてと部屋を出て行く。男の癖に実に少女らしい動きをするやつだ、と改めて思った。
ミランが部屋を出て、扉が閉まる。が、間を開けて再び扉が開き、ミランが顔を出した。
「そうそう言い忘れてた。ありがとう、愛してるよ、トモシゲ」
投げキッスをしてくるミランにお前はアメリカ人か、と言いたくなる。
「バーカ、男に告られても嬉しくねぇよ」
俺の言葉にミランは何故かにこっと笑って部屋を出て行った。
ミランが愛してる、なんて言うのはいつものことで、今更気にすることでもない。
俺は机の上に置いてあった本を手に取り、読書を再開した。
数ヶ月後、ミランの開発していたこのヘッドウェアを使ったゲームでひどい目にあうのだが、それはまた別の話である。
終わり
この話のプロット。
「二次元いきてーwwwwww」
「無理に決まってんだろwwwwww」
「逆に考えるんだ。二次元がこっちにこればいいんだ、とwwwwww」
「お前ばかじゃねーwwwww」
「という訳で作ってみましたwwwww」
「なん……だと……」
「このメガネをつけると、二次元のキャラが見えます」
「なんというスカウター。なんという電脳コイル」
「ちょっとした次元連結システムの応用……じゃなかった、既存の技術の組み合わせで可能です」
「すっげー! お前マジ天才だな!」
「よーし、じゃあ二次元キャラ呼ぶぜ!」
「おーし、ばっちこーい!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………これ、完全にミクダヨーじゃねーか」
「うん、アニメキャラがリアルに見えたらキモいね」
「…………」
「…………」
「あ、でも、手のひらサイズにするとか、ロボを見えるようにした方がよくね?」
「うはwwwお前マジ天才wwww。お前マジ愛してるwwwww」
「ばっかwwwww男に告られても嬉しくねーってのwwwwwwww」
「んじゃ、作り直すわー」
「おう、がんばれー」
電脳コイルを実現するまで彼らの戦いは終わらない!
完
あれ、脚本の方が面白いぞ(何
これは完全な人選ミスですね。男と男の娘を出したせいでホモソーシャルな匂いがたまらないぜー。
前の記事でも書いたけど、新技術の解説をするとか、それなんて『こち亀』。
本編でも言ってるけど、基本的には既存技術の応用しか使ってません。
まず、半透明なヘッドマウントディスプレイはエプソンが開発してすでに販売してます。
エプソン:BT-100
http://www.epson.jp/products/moverio/
実売価格が約3万2千円くらいですね。
カメラ機能がないからスカウターとは行きませんが、透過ディスプレイに映像を映し出す技術がこんな安価で手に入るとかいい時代です。
あと、グーグルが新製品を今開発中だとか。
Google:開発中のARメガネ
http://ggsoku.com/2012/04/google-project-glass/
これは哲学さんが書いた小説の中で出てきたハンドサインで指示するのではなく、Siriみたいに音声入力で動かすようですね。鉄人28号みたいでいいですね。
んで、ハンドサインなどのモーションで動かすのは本編でも言ってるとおりキネクトなどの技術。
マイクロソフト:キネクト
http://www.xbox.com/ja-JP/kinect
さらには富士通の新型パソコンには本編で出てきたように、空中で手を動かしたら、その動きに沿ってPCを動かす「ハンドジェスチャー機能」が搭載されてます。
富士通:ハンドジェスチャー機能
http://www.fmworld.net/fmv/pcpm1302/win8/index.html#point05_hand_gesture
これらを組み合わせることによって現実世界でソードアートオンラインみたいにステータスウインドウを開いたり、アクセルワールドみたいに操作画面をAR空間に描画したりすることは現実的に可能!!!
つーか、そのまんま『電脳コイル』ですね。
……いや、まだそれらを統合的に組み合わせる技術が出来てないので、やっぱりまだオーパーツかなぁ。でも、グーグルの開発しているARメガネが発売されたらこの話は「それってグーグルがもうやってるよね」と言われてしまうんですよねぇ。
既存の技術を作品で扱うって難しい。
富士通のハンドジェスチャー機能とか面白いですよ。カメラの前で手のひらをくいっくいっ、と曲げるとパソコン画面でクリックがされたり、手の動きに合わせてドラッグされたり……Windows8でこんなことさせるとか、富士通ぱねぇ。
エプソンのヘッドマウントディスプレイにしても、発売は二年前ですからね。
なので、技術的には目新しいものじゃないんですね。
ただ、この話で書いてるようなことは、三年以内に実現されてしまいそうなので、この話で小説デビューするつもりならとっとと書き上げないといけないですね。
話的には本編の予告編。
本編では、このAR技術を使ったヘッドウェアを使った電脳世界でバトルゲームをする話にしようかと思ってたりしたんだけど、どうせそこまでするなら自我を持ったAIの話とか、SF要素をぐっと盛り込むべきじゃね? とか思ったり。
というか、もっとSFしちゃってもいいんじゃないか、とか思ったりたり。
まあ、この話はヒロインポジの男の娘が一番ファンタジーなんですけどね。
まあいいや、本編のプロット練ります。
ではでは。