即興小説その8

 毎日短編書いて小説力をあげようキャンペーンその8。

(http://d.hatena.ne.jp/kaien+B/20130815/p1)

○今回のプロット
・女の子が秘密を告白
・それでも男の子が好きだと言ってくれるハッピーエンド

 オーソドックスに。


「先輩……実は私……実は私……」
 後輩の女の子が思い詰めた顔で告げてくる。
 これはもしや告白かっ!?
「実は……魔法使いだったんです!」
 ずっこけた。
 何言ってるんだこの子?
「いやいや、今時魔法使いとか。古いよ」
「え? そうですか?」
「うん。最近の流行は電撃使いだよ」
「そうですか……ごめんなさい」
 いやいや、そこで肩を落とされても俺が困る。
「じょ、冗談だって。いやー、お前が魔法使いだなんて俺全然知らなかったからなー。全然そんな素振り見せなかったからなー」
「ええ。一族の秘密でしたから」
 えぇー。冗談として流そうとしてるのにこの子マジレス全開じゃないか。
 ……っていうかマジなの? 本気で魔法使いだと思ってるのこの子?
 それこそ、今流行の中二病なのだろうか。
「……具体的にはどんな魔法を使えるの?」
「いえ、実はそんな便利なものでなくて、その……もっと詳しく言うと『奇跡使い』の血統なんです」
「え? 奇跡起こせるの? なんかレベルアップしてない?」
 お、中二病特有の独自設定か?
「私の先祖はモーゼなのですが、あまり奇跡の内容を選択的に行使できないんです」
 来た! 中二病にありがちなご先祖様はすごい設定!自分はすごい家の血筋とかバカじゃねーの!
 モーゼとかユダヤの救世主の一人じゃないですか。世紀末も終わったのにまだ終末気分ですか?今は終末じゃなくて週末ですよー? っていうか、ユダヤ人なの?
 どう見てもキミは日本人の見た目だぜい?
 名前は『森中希良螺<キララ>』ていうキラキラネームそのものだけど。
「そっかーすごいなー。
 うーん、でも奇跡起こして貰えないとちょっとすぐには信じられないかな〜」
 俺の言葉にキララちゃんは苦い顔をした。
 うん、中二病の設定だったら奇跡なんて起こせる訳ないもんね。
「……モーゼはかつて、その実力を示せとエジプトの魔法使い達に言われました」
 まあ、いきなり自分が救世主だと言われたらそんなこと言われるよな。いつの時代でも。
「その結果、モーゼが神に祈ると様々な奇跡が起こりました。
 水が血に変わったり……突如として疫病が流行ったり、どこからともなく蛙が大量に発生してエジプトの街が埋め尽くされたり、砂漠に雹を降らせたり、エジプト人の長男だけ次々と突然死させたり」
 グロい。なにそれ。
 奇跡というか、呪いじゃねーか。神様に選ばれたメシアがなにやってんだ?
 モーゼっつったら海を割るだけかと思ってたらそんなことしてたのかよ!
「これらは『十の災い』として出エジプト記にも記載されてます」
「いやいや、思いっきり『災い』って言ってるし。それは奇跡なのか?」
 淡々と語るキララちゃんの目はいつの間にかうつろな物になっていた。目の焦点があっておらず、どこを見ているか定かではない。
「奇跡ってもっとぱぁーと、いいことが起きるもんじゃないのか?」
「奇跡とは……あり得ないことが神の力によって起きたりするものです」
 うつろな目をしたキララちゃんはそう言いながら空を振り仰いだ。
「果たして神がどんな奇跡を起こすか――私にも分かりません。
 でも、先輩が言うのなら、見せます。
 私の奇跡を!!」
「え? ちょ、まさか? そんな危険なパルプンテとかやめて!
 しかもなんか俺のせいっぽい言い方やめて!」
 だが、俺の制止を無視し、後輩は謎の呪文をいきなり唱え出す。まさかヘブライ語
 いやいや、一介の日本の女子高生がヘブライ語なんてはなせるわけないよね?
 というか、ただ単に自分の中二病設定を補完するためにテキトーなこと言ってるだけだよね。
 というか、別にヘブライ語はなせたとしても奇跡が起きる訳じゃないしー。
 ……というか、そもそも俺、なんでこんなこと告白されてるんだっけ?
「アーレルゥヤ!」
 あ、なんかいつの間にか呪文終わってた。
 俺はびくりと肩を震わせ、おそるおそる左右を見た。
 …………。
 ………………。
「あれ、なにも起きて――ぶふぉっ」
 突如、後頭部に衝撃を感じ、俺は膝をついた。
「居てて……なんだよいきなり」
 振り返るとそこには鮭が落ちていた。
 ……え? 鮭?
 ここは港町の高校とはいえ、陸地だ。
 海からは2kmは離れている。
 いきなり鮭が現れる訳がない。
 しかも……。 
ビチビチビチビチビチ
 生きてる。
 生きてる鮭が地面で跳ね回っていた。
「おいおい、一体コレはどこから……」
 と言った瞬間俺の目の前をサバが通り過ぎた。
 しかも、一匹や二匹ではない。
 幾つもの生きた魚が次々と空から隕石の如く降り注いできたのだ。
「う、うわぁぁぁ! なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 天気雨ならぬ、天気隕石というか……ともかく晴れた空から次々と生きた魚が降ってくるのだ。
「ぎゃぁぁぁぁああ、お、おい! 森中! これ止められないのか!!」
「……分かりましたか先輩。このように私は奇跡を使えるのです」
 使えるって言うか、奇跡を呼び寄せる感じというか――。
「そんなことどうでもいいからこれを止めろぉぉぉぉぉ!」
「どうなんですか? 私は嘘ついてませんでしたよね?」
「はいはい、分かったから! 認めるから!だから止めろよぉぉぉぉぉ!」
 後輩の両肩をつかんで必死で揺さぶる。こんなのむちゃくちゃすぎる。
「……モーゼは好きでエジプトをむちゃくちゃにした訳じゃないのです。
 神に祈ったら、そういうことが勝手に起きたのです。
 エジプト人の子どもが次々と死んだ時も、それを止めることはできず、呆然と見つめ続けていたそうです」
 発動したら最後、神様の気が済むまでノンストップかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!
 モーゼというか、ヤハウェの神がむちゃくちゃすぎるぅぅぅぅぅぅ!
「先輩……こんな私でも愛してくれますか?」
 そこで俺ははっとした。
 ああそうか。
 そう言えば、そう言う話だった。
 俺は彼女に告白した。
 彼女は自分は先輩が思うような人間ではないと言って拒否した。
 それでも俺は言ったのだ。
 お前がどんなやつだったとしても絶対にお前のことを嫌いにならない! と。
 本当に好きなのだと!
 次々と顔に生魚がペチンペチン当たる中、俺は決意を決めた。
 対峙するキララちゃんの顔にも現在進行形で生魚が次々と激突しており、まったくロマンチックな光景ではない。
 俺達の周囲には幾つもの魚が跳ね回っており、俺はかなり……かなり苦労して真面目な顔を彼女に見せた。
「当たり前だろ! 俺はお前に惚れてるんだぞ!」
「先輩……」
 じつはもう結構かなり心が萎えかけているのだけれど、それでもここで引き下がる訳にはいかない。
「口ではなんとでも言えます!」
 ……ぐっ、なんて疑り深い女なんだ。もうこの状況でも意志を変えないところで察して欲しい。少なくとも、俺がただの体目的だったら頭に鮭が激突してる時点で逃げてるっての。
「証明してください!」
 だぁぁ、めんどくさい!
 俺は強引に彼女の唇を奪った。
 途端――魚が降り注ぐのが止まった。
 よく分からないけど――こう言う時はキスをするのがお約束だ。
「どうだ、これでも信じられないか?」
「……いいえ」
 キララはそう言って俺に抱きついてきた。俺は彼女の体を抱きしめ返す。
「先輩……生臭いです」
「誰のせいだと思ってるんだ、このバカ」
 俺は彼女の頭を撫でながら呟く。
「男ってのは惚れた女のことをなんでも受け入れられるもんなんだよ」
 すごく嘘だけど、今はそういうことにしておく。
 十の災いが降り注がれても困るしな。
「ありがとうございます。でも、どうしてそこまで私のことを?」
 疑り深いなぁ。
 好きなものは好きとしか言いようがない。
「そんなこと、神様にでも聞いてくれ」




 ……時計見たら50分経ってました。
 あうあう、なんか書いてたら変に乗って時間オーバーしてしまいました。
 そしてまたファフロツキーズネタ。いや、リベンジしたかったんです。
 あーあと、女の子を可愛く書くの忘れてた。
 ぐぬぬ、哲学さん駄目すぎるぜ。
 ていうか、微妙にオチてない。
 でも、今までで一番恋愛物ぽい雰囲気だけは出てますね。
 だけですけど。
 まあいいや、反省は明日書こう……寝ます。